なまえ様は猫のような方だ。
気分が向けばわたくしがどれだけ触れてこようと邪険にはせず、むしろじゃれるように甘えてくるのだが、機嫌が悪いと少し近づくだけで嫌そうな顔をされる。
主に煙草が切れている時ですが。
まあ、そんな所がまた愛らしいのですけれど。
今日はどうやら機嫌がいいらしい。
ソファで横になりごろごろとくつろぐなまえ様に近づくと、迎え入れるように腕を広げられた。
誘われるままになまえ様を抱きしめると、胸元にすり寄ってくる。
至福の時でございます。
しかし、腕の中に感じるなまえ様の感触が依然と違うことに違和感が。
何だか、前よりも頼りなさが増したような。
「なまえ様、最近ちゃんと食事は取っておられますか?やけに細くなられた気がしますが」
まさか無理なダイエットでもなさっているのではと思ったが、それよりも恐ろしいことをさらっと白状される。
「あー、何か食べても食べてもお腹一杯にならなくて。でも煙草吸ったらあっという間に満足したんですよね。だからこれはもう煙草吸ってたらごはん食べなくてもいけるんじゃないかと」
「そんなわけないでしょう今すぐ食事に行きますよ!」
そう言えば飲み物を取り出した時に冷蔵庫がやたら空いていたわけである。
これでは本当に最低限の水分と煙だけで生活していたのではないだろうか。
何日間そのように過ごしていたかなど聞くのも恐ろしい。
近くの店に行って何か今すぐまともな物を食べていただかなくてはと、なまえ様を抱えて立ち上がろうとするがぐいと引っ張られて阻止される。
「なまえ様、今度ばかりはわがままを聞くわけには」
「外に行くの面倒なんで、ノボリさん作ってください。私ノボリさんの作るごはん好きです」
おかゆがいい、と言ってくる所からして、やはり少なからず憔悴はしているらしい。
たしかに米と卵ぐらいならあったようだが、しかし。
「くっ、こんな所でデレるとは…!」
普段めったに聞けない『好き』という言葉に胸を打ち抜かれ、怒りもどこかへと霧散してしまう。
これが計算だったとしたらもう素晴らしいとしか言いようがありません。
「はあ、別にデレてませんよ。それより早く美味しいおかゆ食べたいですノボリさん」
「今すぐに、お嬢様」
ああ、満足気に笑うその顔の何と愛おしいことか!