割と聞く話ではあるけど、私にとって煙草はストレス値を示すバロメーターでもある。
ストレスが溜まると無意識の内に消費本数が増えるのだ。
いつもなら1本吸って休憩を終わる所が、2本3本と増えたらちょっと危ない。
その内爆発するか、ぶっ倒れるかのどちらかだ。
そういう意味でも煙草は手放せない。

しかしストレスは煙草の減り方でわかるけど、無意識にがんがん吸っていると煙草自体がどれだけ残っているかというのは案外気づかないもので。
家の中でぼんやりとしながら、手癖でシガレットケースを振るがカサリとも言わないそれを見てようやく空になっていると知った。
茫然と空になったケースを見つめ、ストックも切れていることを思い出す。

「あああ煙草切れたストレスで消費早いの忘れてたくっそぉおお!!」

突然叫びだした私に、すっかり家に馴染んできたノボリさんが驚いたように顔を上げるが知ったことじゃない。
煙草が切れるというのは私にとって死活問題だ。
別に今すぐほしいというわけじゃないけど、ふとした時に吸えないというのは地味につらい。

そうだ、コンビニに行こう。

「ノボリさん、アイスとか何か食べたい物ありますか」
「いいえ、特に……。なまえ様、まさかこんな夜中に出かけられるのですか」
「ええ、ちょっと煙草を買いに」
「いけません、せめて明日の朝にしてくださいまし。でなければわたくしが買いに行きます」

流石にここでならお願いしますと言えるほどこの人を使い慣れていない。
煙草を買ってこいなんてどこの不良学生だ。

「………今日は、我慢します」
「それがよろしいかと。ああ、わたくしの物でよければどうぞ」

目の前に箱が差し出されて、ちょっと迷う。
別にそう選り好みするタイプでもないんだけど、もしノボリさんと煙草の趣味が合わなかったとしたら軽く痛い目を見ることになるんじゃないだろうか。
吸い口はチョコレート味なんてとんでもないヤツもあるわけだし。

……まあ、結局もらうんですけどね。

「それじゃあ、お言葉に甘えて。………かっる!」

味は普通に好みではあるんだけど、予想以上に軽くて吸った気がしない。
いつも以上に慎重に深く吸い込むことで、ようやく味わいが出てきた。
その反応に、ノボリさんが少し呆れたように口を開いた。

「貴女様の煙草が重すぎるのです。何ですか10ミリって」
「別に重すぎってほどでもないでしょう。あーでも、確かに以前『少々嗜む』って言ってましたよね」

なるほど、それは文字通りと言うわけか。
確かに彼が煙草を吸っている所は見たことがない。

「わたくしは思い出したように吸う程度ですから。……火をいただいても?」
「ええ、ライターどうぞ……って、あはは。意外とロマンチストですねえノボリさん」

煙草を咥えて顔を近づけるノボリさんに、私も応えるように煙草をすうと大きく吸い込む。
ノボリさんが咥えた煙草が、触れた先からじりじりと赤くなって火がついた。
シガーキスって初めてなんだけど、これもファーストキスに入るんだろうか。



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