最近どうにもおかしい。
見知らぬ番号から着信履歴が立て続けに残っていたり、夜帰る時に必ずと言っていいほど視線を感じたり。
さらには干していた下着が何故か新品の物と取り換えられていて、毎朝ライブキャスターに男性の声でモーニングコールがかかってくる。
友人に相談したら、十中八九ストーカーだろうからジュンサーさんに連絡しろと言われた。
それもそうだ、早速今日帰ったらジュンサーさんに通報しようと思っていたら、犯人が自ら私の前に現れた。
「ええ、ライブキャスターの番号も入手いたしました住所ももちろんおさえておりますなまえ様の深夜のご帰宅をそっと警護し干してあった下着を新品と取り換え毎朝のモーニングコールも欠かさないのはこのわたくしノボリでございます」
「お前の仕業か!!」
数日前に突然一目惚れだか何だかで告白してきた鉄道員だった。
「お前などとは他人行儀な、ノボリとお呼びくださいまし」
「知りません、覚える気もないんで」
「ならばわたくしはあまりの悲しさになまえ様を殺して後を追うしか道はございませんね」
「無理心中はよくないと思いますよノボリさん!」
「ええそうですね、わたくしもなまえ様とは今生で共に幸福になりたいと思っておりました」
「何で一時的に言葉が通じなくなるんですか。地下だから電波が悪いんですか圏外ですか」
自分自身が電波のくせに電波が悪いってどんな冗談だ。
まあこの人は故意に電波ぶってる所もあるみたいだけど。
「ともかくノボリさん、ストーカー行為はやめてください。ジュンサーさんのお世話になりたいんですか」
「なまえ様が同棲してくださらないので、この溢れる思いをどうにかお伝えしようと思いまして」
「あんなあからさまな高級マンションなんて住む気になれませんよこの変態」
告白を受けたその日にずるずると引っ張られて何階建てだと言いたくなるようなマンションの前で「こちらがわたくしたちの愛の巣でございます」なんて言われたら誰だってドン引くわ普通。
勿論その後は急所を蹴り上げて逃げ帰ったのだが、思えばその時に後を付けられてしまったのかもしれない。
「ならば今の住まいを引き払い程よい物件を探しましょう」
「気持ち悪いんでやめてください」
何でこうも簡単に人に合わせることができるんだ。
仕事を辞めると言ったこともそうだし、家を引き払うなんてそう簡単に言えるものじゃない。
愛が重すぎて潰れそうだ。
そしてどんなに罵倒しても、ノボリさんはめげてくれない。
とんだネバーギブアップ精神の持ち主である。
「ですがそれではわたくしなまえ様と共にいられません!」
「一緒にいる必要性が見出せません」
「わたくしがお傍にいたいのでございます!」
本当に、わけがわからない。
傍にいたいから、好きだからという理由でストーカー行為を正当化されたらたまったもんじゃない。
「ああもうそれなら来たい時に私の家に来たらどうですか。はい合鍵どうぞ」
渡す相手もいないのでずっと持っていた合鍵をそのままノボリさんの目の前に差し出す。
自分が預かり知らない所で何かをされるのは吐き気がするほど嫌だけど、私の認識の範囲内で動かれるのであれば、何をされても大抵は許すことが出来る。
大抵は、というだけですべてが許せるわけじゃないけど。
「よろしいのですか!?」
「このままストーカーになられるよりはマシですから」
「ありがとうございます!」
「ありがとうついでに下着返してください」
「………それは了承しかねます」
しっかりと合鍵を握りこんでから、首を横に振る。
何が了承しかねるだ、本当は交渉の余地なくジュンサーさんに突き出す所なのに。
「じゃあ合鍵返せ」
「そ、それは…!!」
幸いにしてピッキングをされたことも、忍び込まれたこともまだない。
そういった技術がないのか、ぎりぎりで良心が働いたかのどちらかだろう。
「2つに1つです。大人しく下着を返すか、ジュンサーさんのお世話になるか」
「あの、合鍵を返すという選択肢がございませんが」
「返してもらったらストーカー行為再開するでしょうが」
それだけは絶対にごめんだ。
イラついて煙草の本数が増える。
普段から結構な量を消費しているというのに、これ以上増えると確実に財布に響く。
それでも多分減らすこともやめることもできないだろう。
「………後日、洗濯してお持ちします」
どうせ返却されたら気持ち悪くて捨てるだろうから洗濯なんてわざわざしてもらわなくて結構だ。
というか、それよりも。
「ねえ洗濯してあった物を何でまた洗うんですか、洗わないといけない状態なんですか私の下着」
「………っ!!」
「バレたって顔しないでくださいよ何したんですか私の下着に何したんですかあ!!」
やっぱりジュンサーさんに突き出すべきだろうか。