イライラするイライラする今すぐにでも煙草を吸いたいあの煙を肺一杯に吸い込みたいああイライラする。
マナー違反だけど仕様がない、一本だけ、いや一息だけでも吸ってしまおう。

『駅構内は全面禁煙となっております。みなさまご協力のほど――』

タイミングよく鳴るんじゃないアナウンス、愛煙家の気持ちなんてどうせ知らないんだろうが。
気持ち隠れるようにして、煙草を取り出し、火をつける。
流れるように入り込んでくる味に心から安心感を覚えた。
落ち着く、やっぱりこれがないと生きていけない。
一息だけでいいと思ったのに、吸ってしまうと欲が出てやっぱり一本だけ、とじりじり煙草を短くする。
灰だけは落とさないようにと携帯灰皿を取り出したところで、ふと影がかかった。

「お客様、駅構内は全面禁煙となっております」

いつも見る鉄道員とは違う制服。
もしかして上の人間なんだろうか。
思わず口に戻すはずだった煙草を注意につられて灰皿にねじ込んでしまう。
あ、まだ長さがあったのに。
イラ、とおさまったはずの苛立ちが再び鎌首をもたげた。

「うるさい消したんだから文句ないでしょ消えなさい」

苛立ちもそのままに融通が利かないと吐き捨てれば、怒らせたのか無言で腕を掴まれずるずると引っ張られる。
部屋で説教でもしようっていうの。
冗談じゃない。
私はこんな所早く出て落ち着いてたっぷりと煙草を吸いたいんだ。

「離せこの廃人!」

バトルサブウェイは勤める鉄道員、集う人間もみな廃人。
聞いた覚えのある噂をそのまま叩きつけると、しかし相手は平静そのままな表情で肯定してきた。

「ええ確かにわたくしは廃人でございますが、あなた様を離すわけにはまいりません」

馬鹿丁寧な口調に、ただでさえ気が短くなっている私は簡単に激昂した。

「説教なら結構間に合ってる!2度とここじゃ吸わないから早く離してよ禁断症状が出る!」

というか出ている。
十分に煙草が吸えていたなら初対面の人間に怒鳴りつけたりしない。
いつもはもっと温厚でいられるのだ。
ああ煙草が吸いたいイライラする!
STAFF ONLYの扉をくぐり、さらにずるずると奥へ引きずられる。
こんな細い体のどこにそんな力があるんだか。
奥へ奥へと入っていき、薄いガラス戸の向こうに入るとようやく腕が解放された。

「ここでなら、存分に喫煙してくださって構いません」
「はあ?」

無表情にここはギアステーション内唯一の喫煙スペースだと説明されるがそんなことは聞いていない。
外に出れば十分に吸えたのに何故こんな所で吸わなきゃいけないんだ、それも注意かましてきた廃人の前で。
しかし限界だったのも事実で、喫煙していいと言われてすぐさま取り出し火をつけた。

ああ、落ち着く。
荒んだ心が癒される。
そして一本をゆっくりと堪能して、頭が正常通りになったところでようやく罪悪感が芽生えてきた。

「すみません、怒鳴ったりして」
「いえ、わたくしも少々嗜みますのでお気持ちはわかります」

意外だ、酒も煙草も好きじゃないって感じの顔なのに。
まあ人は見かけによらないし、喫煙ってストレス発散には丁度いいしね。
彼も注意だけするのが忍びなくてここまで連れてきてくれたのかもしれない。
そう考えれば、結構良い廃人さんじゃないか。

「喫煙所まで連れてきてもらってありがとうございました。それじゃあ、落ち着きましたし私はもう行きますね」

落ち着いたとはいえ、今日吸えなかった分思い切り吸いたいという気持ちはある。
勿論リラックスできる場所でだ。
少なくともじっと見られながら何本も消費なんてできない。

「失礼、お客様」

早く帰ろうと廃人さんに背を向けると、再び腕を掴まれた。
何だ、やっぱりお説教でもしようっていうのか。
反省文でも書けば許してくれますかね。
胡乱気に廃人さんの顔を見上げれば、ぴくりとも動かない仏頂面が目に入る。

「わたくしと結婚を前提にお付き合いしてくださいまし」
「………はああ?」

ああ、何だかまたイライラしてきた。



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