うっすらと筋肉が付いた体を惜しげもなくさらしながら、「お風呂先にいただきました」なんてこちらも見ずに告げてくる。
ノボリの体はデスクワークが主体な為か見惚れるほど綺麗と言うわけでもなく、むしろもっと食事を増やした方がいいんじゃないかと思わせるような細さと薄さで、言ってしまえば貧相一歩手前だ。
それでも最低限は隠しましたと言わんばかりに適当なはき方をされた下着からのぞく足はメブキジカのようにしなやかで、勤務の合間を縫ってはせっせと走り孵化作業に励むノボリの努力がうかがえる。
「………ねえ、ノボリ。下着一枚で風呂から出るなとは言わないけど、その最後の砦もう少しちゃんと着てくれない?」
「えぇ、いいじゃないですかこのくらい。本当なら全裸で歩き回りたいところなんですから」
心底かったるそうな顔をしてこのお返事である。
最後の砦、もといノボリの下着は彼の尻を半分ほど隠しているだけの状態で、前に至っては下生えが顔をのぞかせていた。
髪の毛からは時折水滴がぽつりぽつりと降って歩き回った後を点々とマーキングして、筋の浮かぶ体には拭きそこねたシャワーの名残があちらこちらに這っている。
1日ネクタイを緩めることすらせず働いた反動なのか、ノボリは家に帰るととことん無精になるのだ。
恋人としてはこのだらしなさに眉をしかめるべきか、それとも気を許されていると喜ぶべきかで迷ってしまう。
全裸で歩き回り始めた時には流石に怒ろうと心に決めているけど、パンツ1枚でうろつくくらいならまあ許容範囲だ。
「なまえだってお風呂上りにあられもない姿でいることあるじゃないですか。わたくしそれに文句を言ったことはないでしょう?」
「文句言わないどころかノボリ喜んでくれるからなあ………」
喜んでそのままベッドやら床やらソファーやらに2人でダイブすることになる頻度があまりに多いので、最近は私もそこまで開放的な気分になることはない。
軽装で風呂から上がったらお誘いの合図だとでも思われていそうでかなり微妙な気分になったのだ。
冷蔵庫から水を取り出し、座ればいいのにその場でぐびぐび飲み出すものだからノボリから滴った水滴が細かい模様を集中的に描いている。
誰が掃除すると思っているのか、とは言わない。
彼は無精だけれど妙なところで律儀なので、自分が汚してしまったと感じれば自分で綺麗に掃除をする。
風呂上りは確かに暑いだろうけど、涼む前にちゃんと服を着ないと湯冷めするだろうに。
適当に履かれた下着を支点に、じいっとノボリの素肌を舐めまわすように眺める。
早く服を着なさいよと視線に念を込めながら。
ドライヤーなんてかけていないだろう髪の毛がうなじにしっとりと張り付いて、思い出したように水分を滴らせては皮膚のしたからのぞく骨や筋にそって背中をつるりと滑る。
しっかりと上まで引き上げられなかった下着が薄い尻たぶの上でとどまり、割れ目の上で引き伸ばされたゴムがノボリの肌にうっすらと影を作っていた。
その影は双丘の奥に吸い込まれるようで、見様によっては半端に脱がされているかのように見えるあられもない下半身に何とも言えない淫靡さを感じさせる。
自分の中の深い場所から沸き上がりかけた何かを吐き出してこらえようと息をつくのと同時に、くるりとノボリがこちらを向いたものだからそっと吐き出しかけたものを勢い飲み込んでしまう。
色素の薄い毛色がそのまま反映された下生えはまだうっすらと水気をはらんでいたのか、鈍色の下に肌の色を透過させる様は下手に全裸を見るより煽情的だ。
拭きそこねた水滴が筋肉にそって流れ落ちる瞬間、思わず舐め取りたいと変態じみたことを考えてしまった。
口の中にじわりと溜まった唾液を飲み下すのは、かろうじて我慢できた、と思う。
ひくりと痙攣のような喉の震えまでは抑えきれなかったのだから、その我慢に意味はなかったのかもしれないけれど。
白状してしまおう、健康的とすら取れるノボリ姿に私はしっかりと欲情していた。
「なまえ、気付いています?あなた、今とっても物欲しそうな顔をしていますよ」
「だって、今のノボリすっごくエロいから」
「ふふっ、………なまえのえっち。ねえ、そのはしたない顔、もっとよく見せてくださいまし」
吐息が絡むくらい、近くで。
囁くようで不思議と通る声が鼓膜を叩く。
ぞっと全身に震えが走るような色気に当てられて、自然と全身から力が抜けた。
満足気に笑うノボリがひたりと私の頬を撫でる。
彼の最後の砦ももう間もなく脱ぎ捨てられるんだろうなと諦めと同時に瞳を閉じて、あの1枚は、彼のではなく私の砦だったのかと驚く程くだらない冗談が頭の中に浮かんで消えた。