「痛いことはしないわ、大人しくしてれば天井のシミを数えてる間に終わるわよ」

ああそれは本来男のわたくしが言うべきセリフなのではと大混乱の渦に叩き落とされた脳内で叫びたてながら、視線はなまえ様の言葉に従い天井のシミを探すべくうろうろとさまよいます。
しかしながらここでひとつ問題が。
この建物、近年改築されたばかりでシミがひとつもございません。
どうしましょう、これではわたくしに課せられた「天井のシミを数える」という使命が果たせないではありませんか。

同意もなく押し倒され今まさに貞操を奪われようとしている男の思考でもないと思いますが、盛大に混乱していることを加味していただければ許容範囲でございましょう。
元来わたくしには「そういった性質」があったことも、このような思考に至る原因のひとつなのでしょうが。

ともかく、わたくしにとってなまえ様に指示された「天井のシミを数える」という使命こそが今の至上命題であり、果たさなければならない最優先の課題なのでございます。
それがどうやら果たせないとなれば、わたくしの取る行動はひとつでした。

「あの、なまえ、様。天井、シミがございません……」

指示を下した方に、さらなる指示を仰ぐ。
淡々とわたくしの服を脱がせにかかっていたなまえ様の手を遠慮がちに抑え訴えると、なまえ様は瞳を僅かばかり見開いてわたくしを見返しました。

「じゃあ、これからのことに集中してて。あとは素直に声でも上げてくれたら言うことなし」
「ひんっ」

脱げかけていたシャツの隙間から脇腹をひやりとした手で撫でられ、驚くと同時に何とも言えない感覚がわたくしの背筋を震わせました。
肩が竦み、なまえ様の手から逃れるような押し付けるような不恰好な態勢を取りながら、冷えた手がなぞり上げるままに声帯を震わせます。
女のような声だと頭の中の冷静な部分が淡々と感想を述べていました。

「ひっ、い…っ、あっああん」
「恥ずかしい声。そんなに気持ち良いの?」

ぼうや、となまえ様の言葉で嬲られるようでした。
それすら気持ち良いと感じたのですから、その時既にどうしようもないほどわたくしの性の方向性は定まり切ってしまったのでしょう。
とは言いましても、被虐の快楽を確実なものとして認識したのはなまえ様のこの行為に端を発するのです。
なまえ様に開発されたと言っても過言ではありません。

どろどろに鋳融かされ、なまえ様の形に合わせ、なまえ様にのみぴたりと一致するわたくしというモノになる。
ああやはり本来これは男のわたくしが行うべきことなのではと快楽の渦に叩き落とされた脳内で叫びたてながら、シミひとつない天井を見つめました。




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