彼はとても誠実で、心から私を愛してくれていた。
少し窮屈に思えるくらいの束縛も、溢れるほどの好意の言葉があればすべて許せた。

「ノボリは、私のどこが好きなの」
「すべてです。貴女のすべて、あるがままが好きです」

その言葉通り、ノボリは私がどんなことをしようとどんな感情をぶつけようと嫌な顔ひとつしなかった。
むしろ嬉し気に目元を緩ませて、甘えてくれてありがとうとすら言った。

そんな言葉に喜んだのは僅かな期間で、恐ろしさが首をもたげるまでに時間はかからなかった。

ノボリは最初から私に恋なんてしていなかったんじゃないのだろうか。
これは恋情じゃなくて、親が子に向ける慈愛のようなものじゃないのかと思い、私はノボリが許すままに感情をぶつけて問いただした。

「ノボリ、ノボリ、家で飼い殺されるポケモンみたいに、どろどろになるまで愛情と餌を与えられているみたいで怖いよ。ノボリは私を嫌いにならないの?どうしても好きなままなの?」

対してノボリはふむ、と少しだけ悩む素振りを見せて、考え考え言葉を並べるようにゆっくりと口を開いた。

「わたくしは、貴女のすべてが好きです。あるがままが好きです。例え他の男と浮気をしても、気の迷いだったという見え透いた言い訳ひとつですべてなかったことにできるほど、わたくしは貴女を愛しています。気まぐれな女性なのだと、むしろ愛しい思いを強くするかもしれません。ただ、わたくしから離れることだけは許せません。嫌いになるとすれば、貴女が離れて行こうとするその時でしょう。わたくしの静止も懇願も聞き入れず、貴女が離れようとしたその時は」

すう、とノボリは息を吸って、今まで私が見たこともないような渦を巻く瞳の2つを2つ、こちらへ向けた。

「貴女を殺してわたくしは生きます」

それじゃあただの殺人予告だと笑い飛ばす勇気は、私にはなかった。

「これが、わたくしの愛なのです。貴女に向ける、好意のすべてです」

ノボリの告白を最後まで聞いて、私は心底後悔していた。
これが私に向けられているものなら、暴き立てなければよかった。
覗き込まなければよかった。
私を覗き返したものたちが、子に向ける慈愛の類似品であればどれだけ良かったことだろう。



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