「こんにちわ、クダリさん」

挨拶と共にただでさえ短い制服のスカートでくるりと回ったりするもんだから、太ももの際どいところまで見えてしまって思わず抱きしめて拘束してやろうかと手が動きかける。
とにかくなまえちゃんはじっとしていない。
くるくるぱたぱたと思うままにいつも動き回っていて小動物みたいだ。

スクールでもこんな感じじゃないだろうなと同じ自由人気質全開だったノボリ兄さんの学生時代を思い出す。
こういう場合、苦労するのは本人よりも周りにいる人間なのだ。
もしスクールでも同じようなら少しお説教しておいた方がいいかもしれない。

「ねえクダリさん、好き。私クダリさんが大好き」

何のてらいもなく挨拶のように言えてしまうなまえちゃんが怖かった。
それは時に照れたように、決意を秘めたように、冗談のように、ぼくに向けて真っ直ぐに投げかけられる。

何て返せばいいのか考えている間になまえちゃんは痺れを切らして、頬を膨らませ不満を目いっぱい表現しながら抗議の声を上げた。

「クダリさんは好きって返してくれないんだ。私は可愛い彼女なのに」

選ぶ言葉も、纏う態度も、勢いのままの生き方も、すべてが若々しくて眩しいばかりだ。
好きだよと返してあげればきっとなまえちゃんは満足するんだろうけど、言葉にした端から恋情の思いより愛玩のそれに変わってしまいそうで、口にするのは恐ろしい。

下手をすると犯罪になってしまいそうな歳の女の子に、ぼくは確かに恋をした。
稚拙な愛情表現だとか、素直な心根だとか、若さに裏打ちされているであろうそれらに強く惹かれたのだ。
なまえちゃんが大人のぼくに恋をしたように、ぼくも子供のなまえちゃんだからこそ恋をした。

この関係はきっと長くは続かないだろうし、だからこそぼくも精一杯大人のふりをしてこの子の良い思い出になろうと今を過ごすことができる。
恋に恋する、とまではいかないけど、これが最大級の愛情表現だとばかりに「好き」を繰り返すなまえちゃんはやはり幼く女性になりきれていない少女で。

ロリコンの気はなかったはずなんだけどなあと内心でこぼしながら、未だに不満顔を継続中な丸っこい頭を優しく撫でる。

「好意は安売りしないものなんだよ」
「そうやって、子供扱いして大人のふりしてたらいいよ。女の成長は早いんだから」

そうやってなまえちゃんはすぐ怖いことを言う。
今より少しでも大きくなって視野が広がり価値観が変われば、ぼくなんていらなくなってしまうのに。
「大人で素敵な恋人」だなんて、君はあっという間に飽きてしまうよ。
何て恐ろしいことだろう。

「いい女になってクダリさんを悩殺してやるの。余所見せず楽しみに待っててね」
「楽しみだけど、なまえちゃんがいい女になったらそれに見合ういい男を探して、ぼくなんて捨てられちゃうんじゃないかな」

不安を冗談に混ぜてこぼすと、丸い目がぱちりとひとつ瞬きをした後にニィ、と細くなる。
新しいおもちゃを与えられたチョロネコみたいだ。

「子供の純情舐めないでよね」
「自分で言っちゃうんだ、いつも子供扱いするなって怒るのに」
「クダリさんから見たら子供だもん。あと2.3年もしたら子供何て言わせないから」

当然のように未来の話をする。
ぼくの隣で大人になっていく話をする。
怖いものはないと言うようなその真っ直ぐさがたまらなく羨ましくて、恐ろしい。

「そうしたらやっと、クダリさんに愛してるって言ってあげられるの」

それまで私を愛して待っててね
何の疑いもなく請われた願いはあまりに可愛らしいものだった。
拙い好意しか知らない君が、愛を知るまで傍にいてくれるなら。
ぼくだって君にできるかぎりの愛を教えてあげる。

その時はぼくも、なまえちゃんに愛してると迷いなく言えるくらいの甲斐性を持たないと。



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