断られるのはわかっていた。
クダリさんから特別に思われているなんて欠片も思えなかったし、恋愛感情なんて夢のまた夢だなと半ば諦めのように悟っていたから。
だから口では好きですと告げながら、何で私は告白なんてしているんだろうと後悔のような諦めのような心持ちでいたのだ。

「ごめん。ぼくは君と付き合えない」

何かを堪えるように、必死で相手を傷付けない言葉を探している彼は本当に真摯でいい人だ。
振られることを分かり切っていて告白するような私にも、真っ直ぐ真剣に向き合おうとしてくれる。
伝えたかっただけとは言わない。
ただ絶対にクダリさんを振り向かせることができないとわかってから、どうすれば彼を困らせることができるか、それだけが私の主眼になっていた。
この告白は言わば最後の手段だったのだ。
並大抵のことでは困った顔をしてくれなくなった、クダリさんへの最後の手段。

結果はご覧の通り、思わず記念撮影を頼みたくなる程素敵なお顔を見せてくれている。

「ぼくはノボリ兄さんが大切なんだ。尊敬してるし、敬愛もしてる。多分、ぼくにとって世界で一番大切で、これからもきっと変わらない。ノボリ兄さん以上に大切な人はきっとできないと思う。というより、そんな人は欲しくない」

兄さんはぼくにとって神様みたいな人だから。
真摯に応えるその目は完全に敬虔な信者のそれだった。
神様だって、人を愛すことを推奨するだろうに、クダリさんはそれすら信仰の邪魔だと投げ捨てるらしい。

気持ち悪いとは思わなかった。
ただただ彼が可哀想で、クダリさんの信仰がいつか報われることを願ってやまない。





「揺るぎもしなかったでしょう、あの子」

ゆったりとした笑みを浮かべたノボリさんはクダリさんとまったく同じ造形をお持ちなのに、一瞬双子ということを疑ってしまうほど異なる表情をしている。
きっとこんな笑みはクダリさんにはできない。

クダリさんを困らせたくて悩んでいた私に「告白してごらんなさい」と唆してきたのは誰あろうノボリさんである。
「困ると思いますよ。どうあっても受け止められないんですから」なんて、自信とも諦観ともとれる微笑みと一緒にアドバイスを受けたのはつい先日のことだった。

「ああしてわたくしへの忠誠じみた思いを吹聴して回るのですから、困ったものです。良い歳なのですから少しは女性とのお付き合いを真剣に考えなさいと言っているんですけど」
「無理でしょう。告白した私が言うのもなんですけど、もしクダリさんが誰かと付き合ったとしても女の人から逃げられそうです」

クダリさんと同じだけのノボリさん信者なら、あるいは上手くいくのかもしれないけど。
困ったように首をかしげながらそっと口元に指先を運ぶノボリさんはまったく違和感がないほど女性的だった。
包容力という点では確かに母親かってぐらいに大きな器をお持ちの方である。

「わたくし、どこでクダリの教育を間違えたのでしょう」
「そういうところじゃないですか。双子なのに教育とか、普通言わないでしょう」
「だってクダリったら、わたくしの真似ばかりして育ってきたんですもの。こうしなさい、ああしなさいと直せばその通りに育ってきたんです。教育で間違いはございません」

随分幼い頃からよく訓練されたノボリさん信者だったらしい。
むしろ一体どこでクダリさんの信者体質はできあがったのか不思議になってきた。

「クダリさん、あのまま女性関係を清貧で過ごして孤独死しちゃったらどうするんです」
「それでも幸せそうで困るんですよね、あの子」

凄まじくリアルな想像ができてしまい軽く震えてしまった。

「けれど、そうですね。なまえもこの度無事にクダリに振られたことですし」

打って変わって、にこりと少女みたいに可憐で無邪気な笑顔を向けられる。

「わたくしと付き合います?」
「付き合いません」

即答である、冗談じゃない。
無事に振られたって何だ、どの辺りが無事なんだ。
いくら振られることがわかり切っていたからって、まったく傷付かなかったわけではない。

おや残念とさして残念でもなさそうにあっさり引き下がるノボリさんに悪魔の真っ黒い羽が見えるようだった。
クダリさんに振られた直後にノボリさんと付き合ったりしたらまず間違いなくクダリさんに刺される。

「わたくしはなまえが好きですよ」
「私もノボリさんのことは好きですけど、それよりも自分の命が惜しいので」
「正直な子ですねえ、可愛いんですから」

何の前置きもなく自然な動作で唇を押し付けられて、一体何が起こったのか認識し切れずにフリーズする。

「クダリがなまえの告白を忘れた頃に、またお誘いさせていただきます」

ぱちんと片目を閉じてウィンクされてしまった。
やっぱりこの人の背中には悪魔の羽が生えている。



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