「ごめんなさい。クダリさんのこと、そういう風には見られません」
いつもみたいに笑って応えてくれると思っていたのに、困った顔で丁寧に頭を下げられ目の前が真っ暗になりそうだった。
だってあんなにぼくのこと見てくれてたのに。
あからさまな態度で好意を示していたのは、ぼくの勘違いじゃないはずだ。
だって彼女は、なまえは仲間内でも評判の「サブウェイマスタークダリのファン」だったのだから。
「なんで、か、聞いてもいいかな」
みっともないとはわかっていたけど震える声で思わず尋ねていた。
あの笑顔は、好意は、彼女にとって何だったのか。
「役を演じている俳優が好きな気持ち、って言ったらわかります?」
「………ぼくは、何も演じてないけど」
「クダリさんはサブウェイマスターじゃないですか。ドラマの役柄を好きになるのと同じなんです。私はサブウェイマスターとして仕事をしてるクダリさんが好きで、それ以外に興味はありません」
私はファンですから、と言われ鈍器で頭を殴られたような気がした。
そもそも、同じ目線で見てくれていたことなんてなかったのか。
「アイドルを好きな人って、よっぽどしゃないなら本気で恋人になれるとか結婚できるなんて考えないでしょう?私も、クダリさんと恋人になったり結婚したりなんて考えられません」
「や、めて」
「まだしもギアステーションにいる受付嬢の方と結婚してくださったら、悲しいですけど自分のことみたいや嬉しいですし祝福できます。テレビの向こう側のできごとと同じで」
「やめてくれ!」
もういい、十分わかった、沢山だ。
異性として以前に、人間として認識されているかすら疑わしい。
なまえにとってぼくは、「サブウェイマスターのクダリ」で、それ以上でも以下でもない存在なのだ。
「好きですよ、クダリさん。これからも応援してます」
今までぼくに向けてきた笑顔をそのままに、何度も励まされた言葉が投げられる。
その内実が薄気味悪いもので構成されていることを、今では知っている。
まるで悪い夢みたいだ。