これならノボリみたいな堅物もイチコロ!!と輝く笑顔で渡されたのは、紐とレースと僅かな布で構成された所謂勝負下着。
布面積は限りなく小さいが、落ち着いたデザインの為か下品にならない絶妙なラインである。
あからさまに女の色を前面に押し出した衣装をノボリは好まない。
むしろ清楚さの中に見える女性らしさにこそ劣情を煽られるタイプ。
そう考えると、この勝負下着はこれ以上なくノボリに効果抜群なはずだ。
そこを弁えているのがまたクダリの恐ろしいところなんだけど。
いくら双子とはいえ、普通兄弟の性癖をそこまで正確に把握しているものだろうか。
「本当に、これ着けたら手を出してくれると思う?」
まがりなりにも異性から下着を手渡されていると言うのに、恥じらい皆無なこの状況は一体何事だろうと我ながら思う。
何事も何も、すべては付き合って1年が経とうというのに全く手を出す気配を見せないノボリが悪いんだけど。
一時はEDかとも思ったけど、クダリ曰く「それはない」らしい。
何でもごく稀にではあるがそういうお店に顔を出しているのだとか。
恋人にはまったく手を出さずに玄人ばかりつまみ食いですかそうですかいっそ去勢するぞと物騒な考えをチラつかせたら、大事すぎて手を出せないでいるだけだからそれは勘弁してほしいと涙ながらに訴えられた。
クダリに。
「私は何で恋人の弟とこんなに親交を深めてるのかなあ。どうしてだろうクダリ、教えてくれない?」
「ぼくのお兄ちゃんがヘタレと紙一重の紳士気取りだからですごめんなさい」
へらりとした笑顔と裏腹に、真剣に申し訳ないと思っている部分があるらしい。
でなければわざわざ兄の恋人に真剣に選んだ勝負下着なんて持って来ないだろうし。
私も、ここまで切羽詰まらなければクダリにこんな相談を持ちかけていない。
貴方のお兄さんが手を出してくれないのですがどうすればいいでしょうか、なんて。
「おもしろくありません」
押し倒されている所為で影になっているノボリの顔が言葉通り不快に歪むのを、かろうじて捉えた。
脱ぎかけのシャツのボタンをすべて外し前を全開にされ、スカートは完全にたくし上げられて下着が露わになっている。
クダリが選んだ、ノボリもイチコロにできる勝負下着。
効果の程はご覧の通りだ。
眉間に皺を寄せて不機嫌に瞳は細くなり、口角はいつも以上にだだ下がっている。
おいクダリちょっと顔貸せ。
何がこれならノボリみたいな堅物もイチコロ!!だ。
「ノボリ、こういう下着嫌いだった?」
勝負下着でその気にさせようとするなんて下品だと思われただろうか。
だって、ノボリが悪い。
ノボリが手を出してくれていたら、私だってこんな安い真似をしなくてすんだのに。
「嫌いではないからこそ、余計に。おもしろくありません。別の男が用意した下着で誘惑されるなど。しかもまんまと乗ってしまう私も、おもしろくない」
ひやりとした手が背中に回され、冷たさに体が竦んでいる間にホックがぷつんと外れる。
上半身を起こされると腕に引っかかっていたシャツを脱がされ、恥じらいに抵抗する間もなくブラが取り払われる。
咄嗟に胸を隠すと、迷うことなく冷たい手が腰を伝いショーツにかかった。
「ちょ、待って。ノボリ…っ」
「こうされたかったのでしょう?わたくしに手を出してほしかったのでしょう?なまえ」
煩わしげな視線を向けられたら、途端に抵抗なんてできなくなってしまう。
「ノボ、リ」
「恋人として、そこまで貴女を悩ませていたことは謝罪いたします。しかし、だからと言ってこんなことを許せるほど、わたくしは不甲斐ない男になったつもりはございません」
知っている。
ノボリが人一倍ヤキモチ焼きで、独占欲の塊で、ともすれば病的なほどに私を愛してくれていることなんて。
「悋気で、身が焼かれそうです。望むのであれば溺れるほど抱いて差し上げます。ですから、他の男が選んだ物など身に付けないでくださいまし」
鳴かぬ蛍が身を焦がす、か。
いくら私が鳴いたところで敵わないわけだ。