ショベルカー。
重機と言われてとっさに何が思い浮かぶかといえば、これである。
工事現場ではたらくくるまの代表格。
ユンボ、バックホー、パワーショベル、英語ならエクスカベーター。
呼び方は様々だけど、油圧ショベルというのが統一名称らしい。
土を掘ったり移動したり、だけでなく、あのシャベル部分を交換すれば鋏にだって粉砕機にだってなる便利っ子。
しかもお値段も他の重機に比べればそこそこお手軽で知名度と人気度は共にトップクラスの重機だ。
「つまり、色んな殺害方法が思いついてしまうという恐ろしい子でもあるわけですね!!」
「貴女は仕事もバトルもそうでしたが、飲み込みが早いですね。上司として嬉しい限りでございます」
「それはどうも!!」
私の体めがけてフルスイングしてきたシャベル部分をあっちへこっちへ走って転んで何とか避けつつ、ご機嫌でショベルカーを操縦するノボリさんに向けて叫ぶ。
こんな状況でもノボリさんに褒められると心のどこかで喜んでしまう自分が心底悔しい。
しかも相手が鼻歌交じりに褒め言葉を投げているんだからなおさらだ。
こっちは命がかかってるんだから、飲み込みだって早くなるに決まってるじゃない。
飲み込みの遅さがつまりはイコールで死に直結するんだから。
前回ブルドーザーでミンチにされかけて私は悟った。
ノボリさんの魔の手が伸びるのをただのほほんと待っていたらいつか確実に重機で心中なんてコントのような死を遂げることになると。
ノボリさんに対して警戒しているだけじゃ駄目だ。
腐っても相手はサブウェイマスター、私なんかがどれだけ気を張っていたところで戦略に関しては勝てる気がしない。
私にできることはただひとつ、戦う相手を正確に把握することである。
仕事の合間をぬってうぃきぺでぃあ先生に聞いてみたり、リバースマウンテンまでひとっ飛びして現場の方たちに重機の弱点を聞いてみたり。
それはもう死にもの狂いで動いてきたのだ、最低限の知識が走馬灯のように巡るほど!
「前回のように一服盛って縛り上げて殴殺するのが確実かと思ったのですが、憎らしいほどわたくしに隙を見せなくなってしまって。なまえ、わたくし大変寂しいです」
「私は大変悲しいです、っよ!!」
恋人に隙を見せなくなるか、恋人に重機で殺されかかるか。
どちらがより同情を集めるかと言えば断然後者だと言い切ってやる。
前者だって言う奴はちょっとこっち来い、ピッピ人形みたいに対ノボリさん用の身代わりにしてやるから。
「しかしこれ楽しいですねえ、ちょっとハマってしまいそうです。いいストレス解消になると申しましょうか」
「ストレス発散ならクダリさん相手にやってくださいってばー!!」
ノボリさんはブンブンとショベルを振り回すのがお気に召したらしいけど、こっちとしては冗談でもやめてほしい。
そんなにストレスが溜まってるなら原因の半分は占めているクダリさんでもぶっ飛ばしに行けばいいんだ。
「………なまえ、これから心中をしようという時に他の男の名前を出すなんて、いささか野暮ではございませんか」
「私は心中するなんて一度も言ってませんからね!?」
「そうやって恥らう姿も大変愛らしいですが、やはりここはわたくしの名前だけを叫んでいてほしいのです」
「わー、ノボリさんってばポジティブ思考!!」
これが恥じらいであってたまるか、魂からの叫びだ馬鹿。
私は現世でノボリさんと幸せになりたいんだから!
「そこにおるん誰や、工事の竣工はまだ先のはず………ってボス何やって、げっふぁ!!」
「おや」
「クラウドさぁあああん!!」
前回動揺夜も深いギアステーションとはいえ、これだけがっしゃんがっしゃんやっていればそりゃいつか誰か来るとは思っていたけど。
私が必死に避けたショベルは勢いそのままに、恐らく見回りでやって来たクラウドさんの体を2、3m吹っ飛ばした。
うわあ、成人男性が綺麗な放物線描いたよショベルカー怖い。
「愛し合う恋人の心中現場に横から割り込むとは、命知らずですねクラウドも」
「完全に不慮の事故ですよ!クラウドさんごめんなさい死なないで目を開けてー!!」
その後、不満げなノボリさんを何とか宥めすかして救急車を呼んでもらった。
やってきた白の車体に赤のラインな車を見て、「これもありでしょうか」と不吉な言葉を零していたように思えたのは、きっと多分恐らく気の所為だ。