「なまえ、見てくださいまし!ライモンシティという既に整備され切った街では需要が低い為に入手や搬入には手こずりましたが、正真正銘本物のトリミングドーザーでございます!」
「んー!!んんー!」
「そうですか、やはりなまえも興奮を隠せないようですね。ええ、わかります。わたくしも幼い時にはこういった所謂『はたらくくるま』というものに憧れたものですから」

その『はたらくくるま』を凶器に仕立てようとしてるのはどこの誰ですか!

叫んだ言葉は、すべて間抜けなくぐもった音にしかならない。
ご丁寧に縄でぐるぐる巻きにされ、口には猿ぐつわをかまされ、今現在私はブルドーザーの歯とキャタピラの間にセットされている。

ノボリさん曰くブルドーザーの中のとりみんぐどーざーとかいう種類らしいけど、そんなもん知るか。
私を殺そうとしている機械という認識だけで十分すぎる。

一体どうやってこんなでかいものをギアステーションに入れたのか。
と言うかそもそもどうしてギアステーションで心中しようとしてるんだこの人、絶対に手間が増えるだけなのに。

「『はたらくくるま』から『はたらくでんしゃ』へと憧れがシフトしたおかげで、こうして凶器に使うにも何の罪悪感もありません。流石に鉄道を凶器に使うのは、ベタかつ容易とはいえ気が引けてしまいますが」
「んっんんんー!!んん、んーっ!!」
「流石なまえ、わたくしのこの思いを理解してくださるのですね!やはり鉄道員としては、車体という神聖な物を凶器に使うなどできません」
「んっぐ、んー」

神聖な職場は殺人現場にしても構わないんですかノボリさん。
そして重機運転手に謝ってください全力で。

それにしても、ブルドーザーってひき殺す以外に凶器としての活用法が思いつかないんだけど、ノボリさんは一体これをどう使うつもりなんだろう。
逃げ出す開路を見つける為にも是非知りたい。

「んーんーん、んんーん」
「ああ、ちなみになまえはご存知ないと思いますのでご説明しますが、このトリミングドーザーというものは少々特殊でして。ブルドーザーは本来前に土砂を移動することが主なのですが、これは歯が前後に付いている為、バックで土砂を寄せることも可能なのですよ」

うわ、今すごく怖いことを思いついてしまった。

「つまり、縛り上げたなまえを一旦キャタピラで潰し、歯で寄せ集め、もう一度念入りに潰せるのです。実にブラボー、確実性の高いものは大変わたくし好みでございます」
「んんんんんー!!!」
「そうですかそうですか、なまえもこのトリミングドーザーが気に入ったのですね。やはりわたくしたちは気が合います。恋人なのですから当然ですけれど」

だったらその気の合う恋人を殺そうとしないでほしい。
キャタピーよろしくじったんばったん動いてみるけど、刃渡りが大きすぎてその射程から逃げきれそうにない。

「それではなまえ、先に逝ってくださいまし。わたくしもすぐに後を追いますから」
「んんんーんっ、んんー!!!」

せめてなるべく苦しむ前に死ねますようにと、衝撃に備えてぎゅっと体を強張らせた。
目も閉じて、強張らせて………待っても待ってもエンジンすらかかる様子がないことに気付き、ゆっくりと弛緩していく。
何だろう、この前は容赦なくフォークリフトで突っ込んでおいて、まさか今回ためらっているなんてこともないだろうに。

「ん、んんー?」

どうしたんですか、とくぐもった音で尋ねてみると、怪訝そうな雰囲気は伝わったのかノボリさんのひどくテンションの落ちた声が返ってきた。

「なまえを縛り上げることに夢中になりすぎて、すっかり、忘れていました」
「………んん?」
「鍵、明日受け取ることになっていたんです」

ああ、それは、何と言うか、ノボリさんらしくもない。

あまりに落ち込んだ声を出すので、意味が伝わらないのをいいことにご愁傷様です、と慰めておいた。
直接言ったら絶対嫌な方向にテンションが上がるから絶対に言わないけど。





×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -