※にょたマス
私の上司であるノボリさんとクダリさんは、誰にはばかることなく自慢できるほど素敵な人だ。
女性ながらバトルサブウェイのボスまで上り詰めるほどの実力を持っているのに、それを鼻にかけることもない。
ミスをしても的確にアドバイスをしてくださるし、個人的な相談にも快く応じてもらっている。
何の取り柄もない私には釣り合わないような人を好きになった時も、馬鹿にせずに真剣に相談に乗ってくれた。
結局今は別の人と付き合うことになっているけど、それでも毎回ノボリさんとクダリさんから助言をしてもらうのは欠かせない習慣になっている。
だから、毎回事前に報告するのも、私の中では当然の決まりごとになっていた。
「ボス、ボス!聞いてください、私ついに明日彼のお家にお泊りに行くんです!」
今まで怖くて中々そういった行為が予想される場所に行くことはできなかったけど、ゆっくりと進めていけばいいと言ってくれた彼になら痛かろうが苦しかろうがすべて捧げたいと思ったのだ。
こういう所は散々乙女思考だと笑われてきたけど、ボスたちは笑うことなく励ましてくれた。
だから今度もボスたちは当たり前のように喜んでくれるだろうと思っていたら、突然傍に居たクダリさんに足を払われて視界が反転する。
床に倒れ込むことはなかったけど、思いっきりソファーに叩きつけられ一瞬わけがわからなくなった。
「………なまえ、痛いこと嫌いじゃなかった?」
「え、あの、ボス…?」
ギシリ、と音を立てて上に覆いかぶさってきたクダリさんに、それでも恐怖心はわいてこない。
クダリさんは基本的に抱きつき魔でスキンシップ大好きな人だから、これくらいの接触はいつものことだ。
私の物とは比べものにならないくらい大きな胸を押し付けられてきても、だからいつもの延長なのだと思っていた。
「痛いことは、嫌いでしょう?だからこそバトルトレインから遠ざけ、わたくしたち付きの事務員に推したのですから」
「………ノボリ、さん?」
上から覗き込んできたノボリさんに、するりと頬を撫でられてぽかんとしてしまう。
あれ、ノボリさんってこんなに自然なスキンシップができる人だったっけ。
「破瓜というのは、それはそれは『痛い』ですよ。人によって、中々血が止まらない方もいるほどに」
「体の中の粘膜を傷つけちゃうんだもん、当然だよねえ。すっごく『痛い』し、その所為で次の日は動けなくなっちゃうかもね?」
「ひ……っ」
2人の生々しい言葉に思わず悲鳴が上がる。
私は痛いことが嫌いだ。
争いごとも苦手。
ポケモンバトルは飛んでくる余波が怖くて大嫌いだったし、そもそも戦わせる意味がわからなかった。
そんな私が何の因果かバトル施設へ派遣された時には、本気で辞表を提出しようかと考えたくらい。
そこへ救いの手を差し伸べてくれたのがノボリさんとクダリさんだった。
ノボリさんが言っていた通り、苦手なバトルから遠ざけてボス担当の事務員にしてくれたことには感謝してもしきれない。
極度に痛いことを嫌う私が初めてを上げたいと思えるようになるまでは、だからそれなりに大変な道のりがあった。
その道のりを超えても、中々恐怖心というものは克服できないものらしい。
ボスたちの言葉に容易に『痛み』が想像できて震えが止まらなくなる。
「かわいそう。本当は怖いんだよね、なまえ。ぼくたち、なまえが大切。傷ついてほしくない」
「なまえ、わたくしたちであれば貴女を傷つけることも痛い思いをさせることもありません」
「だってぼくもノボリも女の子。なまえに痛い思いをさせるものなんて持ってない!」
「男の様に、自分本位に貴女を求めることもいたしません」
すり、すり、と言葉を刻み付けるようにボスの柔らかい手が、足が、体を這う。
それはボスたちが言う通り、全然『痛い』ものじゃなかった。
「ねえなまえ、ずっと言おうと思ってた」
「男などに貴女の処女をくれてやることはありません」
「ぼくたちなら、痛くないように初めてをもらってあげられる」
「すべての『痛い』ことから、なまえを遠ざけて差し上げます」
そんなこと無理に決まってる、はっきり嫌だと断らなければいけない。
なのに、ボスたちの言葉は麻薬じみて私から正常な判断力を奪う。
今まで私を助けてくれたのはノボリさんとクダリさんの言葉で、それが間違っていたことなんて一度もなかった。
だったら、今度もきっと、間違ってなんかない。
「………本当、に、痛くない…ですか?」
私の疑問に答えるように、2人がこれ以上なく優しい笑みを浮かべた。
「ええ、誓って」
「気持ちいいだけ」
もしかしてそれは、罠にかかった獲物を見る猟師の笑みだったのかもしれない。