バサバサバサ、と大量に紙が落ちる音にまたクダリさんが書類を落としたのかと目をやれば、駅員室のゴミ箱に向けて手を叩いているボスの姿が。
「はー、すっきりした!」
それはようございましたと声をかけるにはボスの表情が苦々しすぎる。
普段笑顔を絶やさないボスが、いや笑顔は笑顔なんだけど、ゴミ箱に向けてざまあみろと言うような顔をしているんだからこれはちょっとした事件だ。
まさか重要書類をゴミ箱に投げ入れるなんて暴挙はしないだろうけど、用がなくなった書類でも内容によってはシュレッダーにかけなければならない物もあるので確認がてらゴミ箱を覗き込む。
中身を確認して、思わず一言。
「うわあ、ボスってば悪趣味」
「どっちが」
鼻で笑われてしまったけど、これは確実にクダリさんの方が悪趣味だと思います。
恐らくはファンの子たちからと思われる可愛らしい手紙を、持ち帰りも開封もせずにまとめて仕事場でポイなんて。
確かに悪質な手紙を送りつける輩だっているけど、このゴミ箱の中の手紙がすべてそうだとは思えない。
きっと心を込めて書かれた手紙だってあるはずだ。
「純粋なお手紙だったら失礼じゃないですか。ここまでわざわざ渡しにいらっしゃったんでしょう?」
「あの子たちがぼくを人間として見るようになったら考えるけどね。可愛いとか結婚してくれとか、あげくに天使だなんてさ!同じ人間だなんて思ってないんだよ、あっちの方が失礼だ」
「まあ、ボスたちはある意味ギアステーションのアイドルみたいな存在ですから。遠い人だと憧れこそすれ、身近な人間だとは思えないんでしょう」
「ぼくはそれが嫌なの!気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!」
鉄道員としてはお客様を擁護するべきだと思ったけど、どうやら失敗だったらしい。
癇癪を起したようにゴミ箱の中の手紙を何度も何度も踏みつけて、気持ち悪いと声を荒げる。
クダリさんの操縦を間違えたと助けを求めて同僚を見渡すと、自分の失敗は自分で何とかしろとばかりに冷たく視線を逸らされた。
いざという時あっさり見捨てるのはお互い様だけど、この爆弾処理が面倒なことは皆知ってるんだから手伝ってくれてもいいだろうに。
無駄に真面目さを発揮したりせずにノボリさんの帰りを待てばよかった。
「ボス、下手したらドア開けた拍子にお客様に見えかねませんから止めましょう。クレーマーにでもなられたら面倒ですし、執務室でなら踏みつけるなり破り捨てるなりご自由に」
「……………っなまえのバカ!!!」
ガン、と最後にゴミ箱を蹴って、足音も荒く執務室へと引っ込んでしまった。
いつもより語彙がかわいそうになっているところを見るに、どうやら相当荒れてるらしい。
ああもう、面倒だなあ。
私がため息を吐く前に、今まで黙っていた鉄道員の方々から盛大なため息をいただいた。
おい、あっさり見捨てた奴に向けて流石に失礼じゃないか。
「なまえ、お前ボスの恋人なんやからもちっと可愛げのある宥め方あったやろ」
「例えばどんなです」
「目ノ前デソンナ手紙見セラレタラ嫉妬シチャイマスカラ、見エナイ所デ処分シテクダサイ。トカ?」
「可愛げあるのそれ……。むしろ何か嫌な奴じゃない?」
「嫉妬もせずにラブレター擁護する彼女よりずっといいけどな。ヤキモチも焼けないのお前」
「う、ぐ」
「挙句奥に引っ込んでろなんて言われたらちょっと傷つくよね。しかも元からボス落ち込んでるみたいだったし、ダメージ倍増なんじゃない?」
「…………っ」
思わぬ集中砲火だった。
何だこれ、私が悪いのか、可愛げもなくヤキモチひとつ焼けない私が悪いってのか!
「少なくとも、このままボスがダブルトレインに乗ったら大荒れになるわ。責任持って通常運行に戻してこい」
「はあ………、何分時間いただけます?」
「あー、今からやと30分ってとこか」
「ノボリボスガ珍シク苦戦シテテ助カッタ。手早ククダリボスノ異常状態直シテキナヨ」
最悪5分で戻れと言われかねないから、本当に助かった。
恋人としての可愛い反応と言うありがたいアドバイスもいただいたことだし、30分もあれば大丈夫だろう。
「了解、片してきます」
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