エメットを縛ってみた。
私は彼の恋人なのに、最近ちっとも構ってくれないんだもの。
少しは動揺すればいいのよ、私が怒ってるって知ればいい。
いつもいつも、ライブキャスターで一言連絡を入れればいつまでも大人しくまってる都合の良い女だって思ってるんでしょう。
ええそうよ私は都合の良い女よ、エメットの囁くヘリウムより軽い「愛してる」でころっと大人しくなっちゃう安い女よ悪かったわね。
浮気されても夜中に連絡もなく来られても突然呼びつけられたって文句ひとつ言わない、エメットから見ればそれはもう面倒のない恋人だったことでしょう。
それでもよかったの貴方の恋人でいられるなら。
けど、愛されてないのならこんな我慢なんて馬鹿らしいだけじゃない。
好意もないのに便利ってだけで振り回されるのはごめんだわ。
今まではどんなに理不尽でもなるべく多くの時間を私と過ごそうとしてくれた。
薄っぺらくてもヘリウムより軽くても愛してるや大好きって言葉を沢山注いでくれた。
だから、私耐えられたの。
文句も泣き言も愚痴だって全部全部飲み込んできた。
そんなのおかしいって誰に言われても、私は満足しているからって突っぱねられた。
それも、エメットに構われなくなってしまったら全部全部信じられなくなっちゃうじゃない。
愛してない。
好きじゃない。
都合がいいから、恋人にしてやってるだけ。
それでもいいって言えるほど、私は盲目的になれない。
動揺すればいい、知ればいい、どれだけ私が貴方を愛していたかを。
その上でまだ私を都合の良い女にしか見られないのなら、いっそ別れるって一言言って。
ねえ、私は今貴方にとってこの上なく面倒な女よね。
愛が信じられないって実力行使に出るような最低な女でしょ。
いらないって、別れるって、その一言があれば私は楽になれるの。
「どうしたのなまえ、そんな泣きそうな顔して。そういう顔もいいけど、笑ってる方がボクは好きだよ。それに上に乗ってくれるなら、ベッドで裸同士の方がボク好みかな」
そういう甘い言葉と最低な冗談、言うのが少し遅かったよ。
もっと早くに言ってくれてたら、いつもみたいに騙されたままでいられたのに。
「そんなことより、この状況見て何か言うことないの?」
「この状況、ねえ。じゃあ聞くけど、なまえはなんでこんなことするの?」
もう答えを知っているような顔をしながら、平気でそういうこと聞くの。
馬鹿、最低、死んじゃえ。
ついでにこんな奴を好きになった私も一緒に死ねばいい。
「好きだからだよ。エメットが好きだから、縛って困らせて私が都合の良い女じゃないってわからせてやりたかった」
わかった上で、別れを切り出してほしかった。
なんて、そこまで口にする勇気は最後まで持てないけど。
ああ、本当に未練がましい。
別れるって言ってほしいくせに、それでもまだ好きだなんて。
「私、エメットが好きなの」
泣きそうになりながら最後に呟いて見えたのは、嬉しそうに笑う貴方の顔。
何で、私都合の良い女じゃないの。
面倒くさいことをしてるんだよ、なのに、どうして。
私なんかの一言で、そんなに嬉しそうに笑ってくれるの。
目覚ましの音に叩き起こされて、エメットの笑顔も霧散してしまった。
「………ばっかみたい」
夢の中みたいに、彼を縛り付けられたらどんなにいいだろう。
視界の片隅に昨日届いたばかりのロープが映ってため息が出た。