なまえが亡くなったと告げるクダリの顔は、驚くほどわたくしに似ていました。
無論わたくしたちは双子ですので元から同じ顔ではあるのですが。
平素が笑顔であることなど信じられないほど、わたくしの仏頂面によく似ていたのです。
ああしかし、わたくしそこまで死んだ目はしておりませんよクダリ。

「交通事故、だって。なまえそそっかしかった、から、………最期、までっ」

なまえらしい、と言えば流石に不謹慎でしょう。
けれど確かに、交通事故とはさもありなん、でございます。

わたくしと結婚してクダリの義姉になってからは、本当の兄妹のように仲が良かっただけにクダリもわたくしと同じか、あるいはそれ以上に悲しんでいるのでしょう。
職場であるというのに人目もはばからず声を上げて泣くことのできる弟を羨ましく思います。

わたくしが、守るとお約束したのに。
何があっても、共にいると誓ったのに。

今朝まであんなに元気だったではないですか。
わたくしの為に苦手な早起きをして、見送ってくれたではないですか。

それなのに、どうして。
どうして、どうして、どうして、どうして。

「……………ノボリ、ぼくがここに残るから。なまえ迎えに行ってあげて。最後にちゃんと、2人きりでお別れ、してきなよ」

すべてを拒絶するように低く低く耳鳴りがして周りの音が遠く感じます。
クダリが何を言っているのかも、わたくしには理解ができないのです。





「ああクダリ、遅かったではないですか!見てください、なまえは死んでなどいなかったのです!」
「………なに、言ってるの」

クダリの引きつった顔にいつもなら苛立ちを覚えるところですが、今のわたくしはそれ以上の喜びに包まれているので気にも留めません。
わたくしをここに案内した者からも似た視線と表情を向けられましたが、それも流してしまいましょう。

だって、なまえが生きている。

クダリの示した住所に従い、向かった先で見たのはいくらか怪我をしていますが静かに眠っているなまえの姿。
事故にあった所為かそれとも怪我の所為か、血の気はよくありませんが確かにそこになまえがいるのです。

「きっと何かの手違いでしょう。なまえはこうして生きているのに、死んでしまったなどと伝わるなんて」
「ねえ、ノボリ、駄目だよ。なまえ………の、遺体、そんなに動かしたら」

わたくしの腕の中で力なくよりかかるなまえを差し、クダリは尚も意味のわからないことを言いました。
確かに、事故にあったばかりのなまえにあまり無理をさせるものではないでしょうけれど。

「意味がわかりません、クダリ。なまえがこうして存在しているのに、遺体も何もないではないですか」
「………っだから!なまえはもう、っし、んじゃ……ってる、の………っ。そっと、しててあげなきゃ、かわいそうじゃんっ」
「だから、なまえはこうして生きているではないですか」
「は、あ……っ?」

なまえという存在はここにある。
今朝と変わらずここにある。
こうして何よりも確かに、わたくしの腕の中に。

「何を言っているのか、理解に苦しみます。クダリ、貴方はどういった状態を死だと認識しているというのですか」

問いかけても、クダリは絶句したまま応えてはくれません。
まったくおかしなことです、弟は何をもって死だと思っていたのでしょう。

会えないわけでもない。
触れられないわけでもない。
ポケモンたちのように、言葉は通じずとも安らかな顔からその思いをくみ取ることもできる。
これのいったいどこが、死だと言うのでしょう。

なまえは確かに、生きているというのに。





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