クダリさんは書類仕事を泣いて嫌がるけど、私はこの業務が大好きだ。
普段あまり見ることができないボスたちの腰や太ももを簡単に盗み見ることができる至福の時間。

ボスたちが書類仕事をする時は、あのトレードマークであるサブウェイマスターのコートも帽子も椅子かハンガーにかけられている。
おかげであのほっそい腰や意外と骨ばっている手首なんかを好きなだけ見られる。

そうやって隙あらばボスたちを視姦していたもんだから、ノボリさんの太もも付近からだらりと下がる黒い紐にもいち早く気づいてしまった。

「ボス、ポケットから何かはみ出してますよ」
「………おや、これは失礼。わたくしとしたことがこのような物をなまえに見せるとは」
「このような物って、それ気合いのたすきとかじゃないんですか?」

バトルサブウェイ廃人代表のノボリさんのことだから、きっと持ち物の類だと思ったんだけど。
少し驚いたような顔をしているノボリさんを見るに、どうも違うらしい。

「いえ、これはわたくしの私物です。布教用に持ち歩いている紐パンでございます」

これこの通り、と丁寧に両手でぴらりと広げられたのは、確かに黒のレースに縁どられた可憐な紐パンだった。
性的だ性的だと陰に日向に噂されているノボリさんが持つとちょっと死人が出るんじゃないかってくらい色気の満ちた絵になる。
それはもう、ここが職場だってことを忘れそうになるくらいに。

……………あ、私もしかして仕事中に寝ちゃってたのかな。
白昼夢にしても随分と趣味が悪いけど。
夢なら誰か、インファイトかましてくれてもいいから起こしてくれないだろうか。

助けを求めるように周りの職員に視線を投げたら、それはもう素晴らしい動きで一斉に顔を逸らされた。
畜生ここに味方はいないのか。

しかもこのような物なんて言っていた割に、見つかってしまったからと開き直っているのか堂々と紐パンを見せつけてくるし。
何が悲しくて上司のこんな姿を見ないといけないんだろう。

「時を見ては色々な方に勧めているのですが、やはりこの繊細な紐では安定感に欠けると中々浸透しないのですよ。まあわたくしもこちらを穿くまでにはそういった考えも持っていましたし、理解はできるのですが」
「は、はあ、それは、大変ですねえ?」
「ええ、それはもう大変なのです。男性職員には粗方勧めたのですが、成果は芳しくありません。抵抗感が少ないであろう女性職員に勧めるのは流石にセクシャルハラスメントで首を飛ばされかねませんからね」

この人は女性に対してどんな認識を持ってるんだ。
まあ確かに、男性に比べたら大切に保護しないといけない物も表に出てないわけだし、そういう意味では抵抗感は少ないかもしれないけど。

というか、だからさっき一斉に顔をそらされたのか。
今は丁度都合がいいのか悪いのか、私以外の女性職員が全員出払っていて男性職員ばかり。
つまりここにいる人間は一通りノボリさんからの勧誘を受け、それを乗り越えてきたと。

どうやって乗り切ったのか詳しくお伺いしたいところだ。

「………ところでなまえ、貴女は紐パン派に乗り換える気は」
「ありませんまったくありません。今のタイプの下着で十分満足してますしこの布面積を信頼してるんで」

あんなに憧れて視姦までしていた上司に向かって真っ向から反論してしまった。
いつもの雑談なら考えておきますだのいいかもしれませんねだの適当に肯定的な返事も返せたかもしれないけど、目の前に紐パンを持って迫りくるノボリさんなんていたら下手な相槌も打てやしない。
うっかり今すぐこの手にある紐パンでも穿いてこい何て言われかねない気がする。
私にそこまで高尚な趣味はない。

けど、どうやらセクハラと訴えられずに勧誘を行うきっかけを得たノボリさんは俄然やる気になっているらしく、全力で否定したっていうのに前のめりでこちらににじり寄ってきた。
普通に怖いですボス。

「そう一概に否定したものではありませんよ。穿いてみればわかります、紐パンがいかに素晴らしい下着なのかを。それにきっとなまえには紐パンが似合うと思いますよ」
「あの、私チャレンジ精神が壊滅してるんでそういう挑戦は遠慮願いたいと言いますか」
「安穏とした日々にもちょっとした刺激が必要なのです!紐やレースが肌に擦れる感覚や、ふとした拍子にサイドの紐がほどけてしまうのではないかというもどかしさなど、堪らないものがあります!時に紐を緩く結んでしまおうかという誘惑にかられるほどに!」
「聞いてませんし知りません!ボスいい加減にしないとセクハラで訴えますからね!」

尊敬していた上司の変態性を見せつけられて軽く死にたくなってくる。
違う、ボスは、ノボリさんは、真面目でストイックでバトル狂で仕事に誇りを持ってる素晴らしい上司なはずなんだ!

「……………これは、強情ですね」

紐パン持って声を低くするような、そんな人じゃない、はず、なのに。

「あ、の、ボス?」
「よろしい、ならばわたくしが直々に紐パンの素晴らしさを講義してさしあげましょう。さあ早速わたくしの執務室へと参りましょうか、あそこであれば邪魔も入らないでしょう」
「いっ、な、何するつもりですか嫌ですよ絶対行きませんか、らぁっ!?」

紐パンを持ったままの手で腕をぐいぐい引っ張られて色んな意味で悲鳴が上がる。

というか堂々とこれからセクハラします宣言されてるんだから誰か止めろよいつまで顔伏せてるんだあんたら!
おい誰だ念仏唱えてる奴成仏させる前にまず助けろ!

「ぃ、いやあああノボリさん使用済みの紐パン穿かされるのはいやあああああっ!!!」
「大丈夫ですよちゃんと洗濯してありますから」

必死の踏ん張りもむなしく着実にノボリさんの執務室へと容赦なく引きずられていく。
ああやっぱりそれ穿かせるつもりなんですか。
というかこれもうセクハラじゃなくて強制猥褻罪ですよボスふざけんな。

散々に思いつく限りで抗議した言葉は、ひとつ残らず執務室の中へと消えていった。




×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -