※海外マス


休憩時間に落ち着いて一服と思いきや、喫煙所は生憎の満員御礼状態。
適当に数人蹴り出してやろうかとも思いましたが、わざわざ野郎がひしめき合う中に入る気も起きませんしフィルターに差し掛かろうとしていた煙草を携帯灰皿に押し付け新しい物に火を付け執務室へと向かいました。
堂々と通路で歩き煙草をしていようが咎める人間などここにはいません。
誰だって安定した収入は惜しいですから。

執務室の扉に手をかけた時、中からはエメットと聞き覚えのある女の声が。
どうやらあの愚弟は仕事もせずに好みのタイプなど聞き出している様ですね。
どこぞのアバズレ相手ならいざ知らず、今回ばかりはグッジョブと惜しみない賞賛を送りましょう。

なるべく音を立てないように室内へ入り、雑談に夢中になっている2人の元へそろりと近づきました。

「そうですね、好きなタイプは特にないですけど、嫌いなタイプはルールを守らない人間です。喫煙所外で煙草吸ってる人間とか信じられませんよね。異性としての魅力以前に人間性を疑います」
「あっは、やっぱりなまえって良い子だよネー…ってぅああっつ!!shit!インゴ煙草押し付けるのやめてよDVで訴えられたいの!?」

涙目でキャンキャンわめきたてられ非常に不愉快です。
女を口説くかバトルをするしか能のない愚弟を八つ当たりのはけ口として活用してやったのだからむしろ感謝すべきでしょう。
さらになまえの嫌いな所定外での喫煙も消えたのですから一石二鳥ではありませんか。

「お黙りなさい愚弟が。サボっている暇があるなら今すぐホームに飛び込んで飛び込み自殺の後処理が如何に面倒なものかを利用者共に教えてきたらどうです、文字通り身を持って」
「じゃあインゴは電車のドアに挟まれて駆け込み乗車は骨を折ることだってあるってオシエテあげなよ、身を持ってサ」

ここでワタクシに向けて死ねと返せないのがこの愚弟は小さいと言うか甘いと言うか。
まあ可哀想なほどにボキャブラリーのないエメットのことですから、単純に思いつかなかっただけでしょうけど。

同じ遺伝子を持っているとは思えない残念な頭加減の愚弟を鼻でせせら笑うと、嫌悪と非難を込めた声が向けられました。

「………ボス、ここでの喫煙は禁止されてるはずですけど」

視線の先にはワタクシの手にある消えかけているとは言えまだ長い煙草が。

「……ほう、お前はいつから上司に進言できるほど偉くなったのです」

本当なら今すぐにでもこの燃えカスをエメットの口にでも突っ込んでやりたい所ですが、プライドがそれを許しません。
なまえが軽く脅しつければ簡単に許しを請うような女であれば良かったのですが、むしろこいつは反抗心を煽られるタイプだったようで。

言っても無駄だと判断したのか、ワタクシへ向けた嫌悪の表情とは打って変わった微笑みをエメットへと向けました。
まるでワタクシがこの場から消え去ったかのような見事なスルーっぷりです。

「エメットさん、胸糞悪い煙が立ち込めそうなので私は先に戻りますね」
「あはははは!!確かにその方がいいかもネ!!!」
「………いい度胸ですクソアマ」
「喫煙者は煙が頭に回って口まで悪くなるんでしょうか。今度調査してみるのも面白そうですねボス」

冷たい一瞥を投げ、それではとあっさり部屋を出ていきました。
減給やクビといった脅しがあの女に対しては通用しないということがこれほど口惜しいとは。
数か月もすれば祖国へと帰るなまえからすればワタクシに忌み嫌われることなど何でもないのでしょう。

ワタクシが自分には手を上げることができないとわかった上でやっているのであれば大した女狐です。
もしそうだったとしても、その計算高さは好ましくもありますが。

「っふ、はははは!!インゴってあそこまで空回るタイプだったっけ?」
「黙りなさい今度はその眼を焼きますよ」
「こっわーい、あはは!でもほら、なまえって煙草がキライじゃなくてルール守らないヤツがキライって言ってたし、落ち込むことないヨ」

そんなことは言われるまでもなくわかっていますが、何度となく所定外での喫煙を見ているなまえからすればワタクシなどすでに嫌悪の対象でしょう。
お前に振りまく愛想はないとでも言いたげなあの顔に気付いて尚そんな気休めを言っているのでしたら、今すぐにでも締め上げてやるところです。

それに少なからず嫌煙の気はあるようですし、今の所なまえがワタクシを好ましく思う要素など皆無です。

「大体、ルールを守らない人間を嫌うのなら何故お前が好かれているのか理解に苦しみますがね」
「ボクなまえの前ではイイコだから!空回りまくりのインゴに比べれば好感度高いの当たり前!」
「そうですかなら死になさい」

片割れのお気に入りを横取りするのはワタクシもエメットも大変好む所でございます。
チェーンスモーカーのワタクシがなまえが来るたびに煙草を口から離しているとわかってしまえば、愚弟がワタクシの新しいお気に入りに気付くことなど容易かったでしょう。
まったく忌々しい。

「ネエ賭けようか?なまえが帰るまでにどっちを好きになるか!」
「賭けになりませんねそんなもの」
「え、何インゴってば、ヤる前から敗北宣言?」

珍しいと言って笑う同じ顔にそんなわけがないだろうと燃えさしの煙草を投げつけて、新しく煙草に火を付けます。
このワタクシがエメットに敗北宣言?
冗談じゃありません。

「帰るまでにワタクシがあれを監禁して終わりですよ」

好かれようが嫌われようが関係ありません。
ワタクシ、気に入った物はどんな手を使っても手に入れなければ気がすまない性分なのですから。

「ボクさあ、インゴのそういう洒落にならないことさらっと言っちゃう所は結構スキだよ」
「気持ち悪いですねその舌抜かれたいんですか」

ワタクシが素直に女の意思を問うほどお人好しではないことぐらい、とっくに知っているでしょうに。





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