運のなさっていうのは異性関係にまで適用されるようで、これまで幸せな恋や素敵な恋人といったものとは無縁の生活を送ってきた。
そもそも出会い自体に恵まれないし、やっと彼氏ができたかと思えば絵に描いたような最低野郎で別れるのにもひと悶着起こる程度に男運がない。
友人だけは人並みに恵まれているのがせめてもの救いかもしれないけど。

だから、神様が配分を間違えたとしか思えないバトル運の強さを見込まれてギアステーションの職員さんに優しくされたとして、そこには何のフラグも見当たらない。
むしろフラグが立ってしまったらそれを上回る不運が巡ってくるに違いないんだ。

「ごきげんよう、ミス……と、呼ばれるのはお嫌いでしたね。こんにちはなまえ様」
「………こんにちは、ノボリさん」

違いないんだから、できればバトル以外で話しかけてほしくはないんだけど。
特に仏頂面のこの人は顔良し地位良し気立て良しの客寄せパンダ、もといサブウェイマスターなんだから、この人と話せた幸運がどんな不運を呼び込むかわかったもんじゃない。

「ところでなまえ様、わたくしとミュージカルを見に行きませんか」
「嫌です」
「ならばスポーツ観戦など」
「無理です」
「でしたら遊園地に」
「行きません」
「何故ですか!?」

ばっさりと即答で断ったら悲愴な顔で詰め寄られた。
ノボリさんって女性に誘いを断られるなんて経験なさそうだし、ここまで断られたらそりゃショックだろうなあ。

ノボリさんはバトルが強い人を気に入る傾向があるらしいけど、私はバトルが強いんじゃなくてバトル運が強いだけなんだからここまで気に入ってもらう義理はない。
むしろ嫌いになるべきなんだ、私みたいな努力も何もせずに運だけで勝ち進むような奴は。
他にももっと真っ当にバトルが強い人ぐらいバトルサブウェイならごろごろいるだろうに。

まあしかし、これで彼のことを嫌っていると誤解されるのも不本意だしそこだけは誤解を解いておいた方がいいかもしれない。
こんな私にもよくしてくれるサブウェイの職員さんたちのことは、私だって好きなんだから。
唯一の居場所で不興を買うのは避けたい。

「ノボリさん、私の不運体質忘れたわけじゃありませんよね」

暗に一緒にいてもろくな目にあわないぞと伝えるけど、それでもノボリさんはどこか不服そうだった。

「……ですが、わたくしといれば不逞の輩に絡まれることもそうないかと。もし絡まれたとしてもわたくしがなまえ様をお守りいたします」
「ノボリさんのお気持ちはとてもありがたいんですけど、それだけじゃないんですよ。ミュージカルもスポーツも遊園地も、今まで行ったことがあるんですが一度としていい思い出はありません」
「それはまた不運に見舞われたのですか?」
「ええまあ。ミュージカルに行けばポケモンが投げた物が私に集中砲火、ラグビーもテニスも野球もバスケも観戦しててボールが当たらなかったことがありません。遊園地に行って乗り物に乗れたことの方がむしろ少ないですし、私が乗ると十中八九緊急停止します」
「………申し訳ありません」
「謝らないでください切なくなりますから」

今まで自分の身に起こった出来事のほんの一例を話しただけでこうもあからさまに同情されたら泣きたくなってくる。
一応自分なりにこの体質とは折り合っているし諦めも納得もすんでいる。

だからこそ開き直ってバトルサブウェイで日々の憂さを晴らさせてもらっているんだし。
晴らしすぎて時々バトル車両まで緊急停止させてしまうことがあるけど。
もう私の不運って特性か伝説級じゃないかな。

「それに、もし不運に見舞われなくてもノボリさんと出かけたくはないです」
「なまえ様はわたくしがお嫌いですか?」
「いえそうじゃなくて。ノボリさんと外出なんてしたらファンの方に恨まれて刺されるという不運イベントが発動しそうなんですよ」

今までも突然見知らぬ女性に見知らぬ男性を取っただの何だのと因縁を付けられて刃傷沙汰になったことがある。
それはまったく身に覚えのない突発的な不運だからどうしようもないけど、私だってできるだけ不運の芽は摘んでおきたい。

私みたいなタイプのバトルサブウェイ利用者が珍しいのか単に強い人間が好きなのか知らないけど、そんなささやかな好奇心で私の不運イベント遭遇率を上げられたら堪ったもんじゃない。
ノボリさんみたいな優良物件は後の不運が恐ろしくて近寄りがたいのだ。
私は精々それなりの人を探すので精いっぱい。

「そのようなことは」
「ないとは言い切れないのが私の運のなさですけど、それでも何か。ちゃんと欠かさずバトルサブウェイは利用しますから、それで勘弁してください」
「……不運とわたくしでは、天秤にかけるまでもないのですか」

思わずはいと即答しかけて慌てて飲み込んだ。
危ない危ない、いい大人なんだから本音と建て前の使い分けくらいできなくては。

「ノボリさんが私の不運をはねのけるくらいに幸運だったらよかったんですけどね」
「わたくし自分の運を左右する力は持ち合わせておりませんので、他に何かございませんか」
「………あー、そうですねえ。それじゃあバトルサブウェイらしく、ポケモンバトルで決めましょうよ。ノボリさんが私に3タテできたら、ミュージカルでもスポーツ観戦でも一緒に行こうじゃないですか」

あまりに諦めが悪いので流石に面倒になって、確実に無理であろう条件を突きつけてやった。
猛者と廃人ぞろいのバトルサブウェイで未だに3タテされたことがないのは私の密かな自慢だ。
多分これからも破られることはないんじゃないかと思ってる。
むしろ破られることがあったら、その時は私の日常の運気がかなり上がっている時じゃないだろうか。


なんて、余裕かましていた私がこの条件を後悔することになるまで、あと半年。



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