「ごきげんよう、ミス・アンラッキー」
「……それ、やめてくれませんか」
「しかし本日も貴女様が当ギアステーションにて不逞の輩に絡まれたと報告を受けています。ブラックシティならいざ知らず、このライモンシティで連日のように被害を受ける方など聞いたことがございません」

さらりと事実を言われて反論もできない。
私は確かについてない。
とにかくついてない。

外出したらそこがたとえホワイトフォレストだろうと十中八九絡まれるし、さらに絡んできた人たちから逃げている間に物を落とす。
人気商品の為に数時間ならんで目の前で売り切れるなんてよくあることだし、安全性に定評のある自販機にはお金を食われる。
今までの不運っぷりを挙げていったらキリがないほどだ。

今日も今日とてギアステーションに来てみれば案の定ガラの悪い数人の不良に絡まれ、心優しい鉄道員さんに助けてもらった。
まあその後でしっかりと同情の眼差しを受けてしまったけど。

「すみません、今日もお世話になりました。確かクラウドさん、だったと思います。さっきお礼を言ってきました」
「なるほど、やはりクラウドではなまえ様の運の強さは破れませんでしたか」
「みたいですね」

唯一ポケモンバトルだけは、私の不運は発揮されない。
むしろ普段の不運を帳消しにする勢いで運が良い。
だから私は自分の不運体質を忘れられるバトルが好きだし、運だけで勝ってしまうこんな私ともずっとバトルをしてくれるこの場所が大好きだ。

「わたくしですらなまえ様の攻撃回避率や急所的中率には驚かされるばかりです。相性の悪さすら、その強運の前には意味がない」
「何か申し訳ないですけど、普段がありえないくらい不運なんでバトルでの強運くらい見逃してくれませんか。私これがなくなったら本当に生きる気力なくしちゃいます」
「見逃すもなにも、ここはバトル施設、強さこそが正義でございます。たとえそれが運であろうと、圧倒的強さを誇る貴女様はここでは確かに正義なのです」
「正義ですか」
「ええ。しかし、わたくしたちとていつもその強運の前になすすべなく倒れるわけには参りません。今日こそその運の強さ、破らせていただきます」

目にはしっかりと闘志を燃やして、彼の正義を示すためにボールを構える。
私だって、唯一の取り柄をそう簡単に潰されるわけにはいかない。
今日だって散々不運な目にあったんだから、その帳消しをさせてもらわなくちゃ。

「また白星、貰っていきますね」
「それは勝ってからおっしゃってくださいまし。シャンデラ!」

ボールから出てきたシャンデラがまたお前かと言うように炎を上げる。
うんごめんね、でも君のご主人も良い具合にチートだから許してほしいな。

「それじゃ、う、わっ」

私もボールを取り出そうとした瞬間、車体が大きく揺れて構えていた子とは別の手持ちが飛び出してしまった。

……まあ、私の強運が発揮されるのはバトルだけだしね。
それ以外にはまったくもって適用されないってわかってたよ。

「………なまえ様」
「いいです大丈夫です、始めましょう」

同情するような眼差しにはもう慣れっこだ。
ここまで不運だともう今日はサブウェイマスター相手に3タテできる気がしてきた。

「どんなに貴女様が憐れみを誘うほど不運でも、目指すは勝利、です」
「バトルで運の悪さチャラにしてるんですよ!」

この程度で破られるなんて思わないでほしい。
伊達に不運被ってないんだから。




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