喘ぎ声で演奏させるなんて言っておきながら、壊滅的な機械音痴である私にはその自信がまったくなかった。
むしろ普通の歌ですらちゃんと歌わせられるかどうかすらあやしい。
とりあえず、付属の説明書に従ってノボリとクダリをそれぞれPCに繋げて起動することにした。
左右のもみあげを同時に引っ張ると電源のON/OFFができるっていうのは、確実に作った人の悪戯心だよね。
ノボリのもみあげを指先でぐっと引っ張ると、今まで閉じられていた目がぱっちりと開いて人形らしいビー玉みたいな目がくりくりとこちらを見てくる。
所有者認識を行っている、らしい。
「マスター の 名前 を 入力 してください」
うわ、やっぱりノボリそっくり、ていうか同じ声。
いつものノボリをさらに無機質にしたらこんな感じかもしれない。
こういう機械的な物言いをされると、この子たちがただの人形じゃないってことがよくわかる。
「マスター の 名前 を 入力 してください」
「……え、名前?なまえ、ですっと」
ノボリに名前を聞かせると同時に、PCの設定画面にも自分の名前を打ち込んでいく。
大元のデータはPC保存になるらしく、こっちにも設定を入力しておかないといけないらしい。
名前を打ち込むと、きゅいんと機械的な音がしてノボリが一度瞬きをした。
「なまえさま で よろしい ですか?」
「はーいオッケー」
「認識 しました。以降 貴女さま を わたくし の マスター なまえさま と 識別 します」
「サブウェイマスターにマスターって呼ばれるのも変な気分だなあ…。まあ、よろしくノボリ」
ぐりぐりとノボリの頭を撫でていたら、隣で沈黙していたクダリがぱっちりと目を開いてぐりんと勢いよくこちらを向いた。
「マスター!」
「うわびっくりした!クダリももう喋れるの?」
「ぼくとノボリ、基本設定、自動的に同期する!」
「ああそうなんだ」
「わたくしとクダリで設定の同期を別にすることもできますが、面倒が増えるだけなのでお勧めはいたしません」
さっきまでぶつ切りの言葉を喋っていたノボリが、私の相槌にすらすらと説明を付け加える。
ロボットっぽいノボリってもしかしてあの設定時にしか見れないものなんだろうか。
動画にでも撮っておけばよかった。
「申し遅れました、わたくしノボリと申します」
「ぼくクダリ!」
「うん、それは知ってる」
というか、本物と名前までまったく同じなので紛らわしいったらない。
今度それっぽいあだ名でも本人たちに考えてもらおう。
「お歌を歌わせてくださいまし」
「ぼくたちそのために作られた!」
PCの画面を2人して指さし、さあ早くプログラムを組めと言ってくる。
だけど悲しいかな、私には2人の希望に応えられるだけの実力がないのだ。
「あー、えっと、君たちには悪いんだけど、私機械弱くて。上手く歌わせてあげられないの」
「なんと!」
「ぼくたち歌えないの!?」
正直に打ち明けたら、機械らしからぬ反応で衝撃を表現された。
歌うために作られたと言い切っている2人を前に、歌わせられないなんて言うのは流石にひどかったかもしれない。
何でお前ぼくたち持ってんのと責めるような目で見られている気がしてきた。
壊滅的に苦手というだけで、本気でやれば簡単な物なら歌わせてあげられるかも。
簡単で、2人同時に歌わせてあげられるものっていったら……。
「……か、かえるのうた、ぐらいなら」
技術が詰まったボーカロイドにかえるのうたを歌わせる。
これってもしかしなくてもすさまじく失礼、もしくは宝の持ち腐れって言うんじゃないだろうか。
けどノボリとクダリにとってはそれでも十分らしく、歌えるとわかった途端にぱっと顔を上げてくれた。
「それでもいいです、歌わせてくださいまし!」
「歌えるならなんでもいいよ!」
うっわあ超素直だ。
こんないじらしい子たちを喘がせようとしてたなんて、とてもじゃないけど言えない。