ノボリさんの素敵な所は、挙げていったらキリがない。
颯爽と挑んできた割に惰弱なトレーナーを見る時の、嘔吐物にでも向けるような視線。
徹夜明けと思われる若干血走った眼に、その下にしっかりと刻まれたクマ。
イライラと神経質に地面を叩く靴音。

そのすべてが自分に向けられているとなれば、気持ちを抑えることなんてできやしない。

「ノボリさん大好きです!」
「申し訳ございませんがわたくしあなた様のような立体的なお方は交際相手として認識できない病にかかっておりまして」

自分を打ち負かした乙女の告白を何の迷いもなく無表情で切り捨てるノボリさんもまた素敵だ。
2次元は私の嫁ですとご丁寧に付け加えてくれるところなんて本当に優しい。

けどこの人、からかい半分で言っている私はまだしも本気で告白してくる女の子にまで同じ文句で断っているんじゃないだろうな。
もしそうだとしたら、それもまた素敵なんだけど。

ノボリさんの人間として褒められたことじゃない部分はとても素敵だ。
思わず大好きと言ってしまうくらいに。
もし舌打ちでもされたら愛してるなんて言ってしまうかも。
「あはは、それは重症ですね!」
「ええ、わたくしがお慕いする方々はそろって奥ゆかしく中々こちらに出てきてはくれないのです」
「もし出てきたらどうするんですか」
「わたくしをそちらの世界へ引きずりこんでいただきます」
「歪みねえ!」

慕っていると言う割にあちらの世界へ行く手段としてしか見ていない所なんか最高だ。

ふ、と困ったように眉を寄せてそっとため息をついたノボリさんも憂いがあって素敵だけど、嫌悪感丸出しの方がきっと綺麗ですよ。

「次元を超えたあちらの世界はまさに楽園だと言うのに、この3次元という現実世界のクソゲー具合にはわたくし萎えるを通り越して辟易しておりますので」
「ノボリさんってゲームするんですね」
「ええ、エロゲを少々」

ぴくりとも動かない仏頂面で、さらっと下世話な単語を混ぜてくるノボリさんに背筋が震える。
素敵、素敵だ。
もっと言ってほしい。

何て、おくびにも出さないけど。
きっとノボリさんにそんなことを言ったら、自分のことは棚上げして変態呼ばわりしてくるに決まっている。
それはそれで魅力的だけど、きっとこうしてバトル後にお喋りすることはできなくなってしまう。

なら私は、この変わった好みを隠そうじゃないか。

「ノボリさん、そこは嘘でも某仲間システムRPGとか言っておきましょうよ」
「自分に正直であるということがわたくしの誇りでございます。まあ大体その手のゲームはやり込みだしたら際限がないということがわかりきっておりますので、あえて手を出していないというのが実情ですが」
「ははん、カンスト、フルコン萌えってやつですね」
「萌えはしませんが燃えはいたしますので。どんな駄キャラも鍛え上げればよく燃えるゴミぐらいにはなりますからね」

心底つまらなさそうに言うが、ノボリさんのその行為は果てしなく無駄で無意味じゃないか。
育てた所でよく燃えるゴミにしかならないキャラを育成するより、ゴミをよく燃やすキャラを育成した方が断然効率が良い。
まあ、そうして無意味に育て上げた駄キャラをずたぼろに使い捨てるのがまたいいのかもしれないけど。
ノボリさんってばゲームの趣向まで素敵に非道だ。

「不燃ごみを可燃ごみに変えるだけの簡単なお仕事ですか、なるほど外道っていうか変態乙です」
「だから手を出さないと言っているでしょう。その点エロゲは攻略もスチルのフルコンも容易ですし、性欲処理としても使える正に趣味と実益を兼ね備えた素晴らしいゲームかと」
「さらっと言いましたけど、つまりは抜きゲーやってんですかノボリさん」

エロゲといっても爽やかな青春物だってあるから、そっちの方かと微かな望みをかけてみたけどあっさり玉砕した。
そうか、ノボリさんもこんな綺麗な顔して女の子が泣いてよがる画面がでかでかと映し出されるゲームをするのか。

「凌辱物は良いですね、リリンの生み出した文化の極みです」
「極みが凌辱物って!!」

しかも凌辱物だった。
泣いてよがるどころか泣いて嫌がる女の子に興奮するとか、とんだドSじゃないかこの鬼畜。

「というわけで、ナニの世話まで2次元によって済ませているわたくしに死角はございません。平面になってから出直してきてくださいまし」
「どこぞのカエルじゃあるまいし、Tシャツのプリントにでもなれって言うんですか」
「また古いネタをご存じで」
「いえあれ多分日本でも指折りの有名なカエルですし。それはそうとノボリさん、最後にお聞きしたいことが」
「何でございましょう」

早くホームに着かないかな面倒臭いと思っている様子を隠そうともせず、ちらりとこちらを睥睨しながら応じたノボリさんに、にっこり笑って問いかけた。

「2.5次元ってありですか?」

少しだけ、ほんの少しだけ考える素振りを見せてから、真っ直ぐにこちらを見ながら宣言する。

「そこに2次元の可能性があるかぎり、わたくしは物の貴賤なく畏敬の念を持って接します。それが2次元を愛するわたくしの使命というもの」
「か、格好良い…!!」

残念なイケメンじゃなかったら惚れちゃうところですよ、ノボリさん。




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