「こんにちはー!」
 「……こんにちは」

 それは、いつものように授業を終えて部室(というかサッカー棟)に向かった時のこと。
 #奏斗#の後に続いて部室に入ると、なぜか空気が重いというかぴりぴりしているというか、まだ雷門が全員革命派になっていなかった頃のような雰囲気が立ち込めていて、俺も#奏斗#も足を止める。まだ天馬たちは来ていなかった。

 とりあえずユニフォームに着替えようと自分のロッカーに向かおうとしたら、車田さんに「おい」と低い声で呼び止められた。……なんだ? これは……嫌なことが起きる気しかしない。振り返ると先輩たち全員俺たちを睨んでるみたいだし……俺、何かしたか……? それとも#奏斗#か?

 「な、なんでしょうか」
 「お前たち……今まで俺たちのことだましてただろ」
 「だ、だます……? 一体なんの……」
 「とぼけたって無駄だド!」

 天城さんの叫び声に、隣の#奏斗#がびくっと体を震わせる。待って、だますとか、とぼけるとか一体なんのこと? 俺たち、何かしたか……? たらり、冷や汗が流れた気がした。

 「お前たち、本当はシードだったんだろ!?」
 「し、シード!?」
 「お、おお俺たちがシードって、どうしてそんな急に……」

 いきなりシードだって言われても意味が分からない。なんでだ? 今日の朝練までは普通に俺たちと接してたのに、何がどうしていきなり疑われなくちゃいけないだ? みんなの視線が痛い。

 「管理サッカーのことを聞いても驚かなかったし、アルティメットサンダーについてもやたら詳しく知ってたし、この間の試合でなんであんなに竜巻について詳しく知ってたんだ?」
 「そ、それは……」
 「必殺技も、化身も、初心者って言ってた割にすぐできたじゃねえか」
 「否定できるものなら否定してみるド。お前たち、怪しいド」

 それはアニメで見てたからです、なんて言えるわけがない。言ったところで誰が信じるんだ? そんな話。俺だったら信じない。必殺技と化身に関しては俺も知らない。
 隣の#奏斗#はわなわな体を震わせていて、パニックに陥っている。俺たちはシードじゃない、否定したところでなぜ管理サッカーについて驚かなかったのかとか、アルティメットサンダーについて詳しかった理由はとか、みんながちゃんと納得できるような言い訳は思いつかない。
 部室のドアが開いたかと思ったら、このタイミングで天馬たちがやって来た。近くにいた浜野から説明を受けて、さすがの天馬も戸惑っている。

 「#奏斗#と#音哉#がシードだなんて、そんな……」
 「どう考えても怪しいだろ。お前、あいつらを庇う気か?」
 「そういえば俺が霧野先輩からシードじゃないかって疑われてた時も、俺はシードじゃないしって言われたっけ」

 狩屋ってば余計なことを……。#奏斗#は完全にパニック状態だし、かといって俺も頭の中はかなりパニックだ。上手い言い訳なんてとっさに思い浮かばない。けど、俺たちはシードじゃないのは真実だ。それをどう証明するか。動かない頭で必死に上手い言い訳を考える。この場はとにかくおさめなきゃいけないから、必死に思考を巡らせる。

 「……分かりました。信じてくれないと思いますが、本当のことを話します」
 「#音哉#……?」

 やっぱり、信用してはもらえないだろうけど、これしかないと思った。

 「信じられないような話だと思いますが、最後まで聞いてください。まず、俺たちはこの世界の住人ではありません」
 「この世界の住人じゃない、って……?」

 本当のことを、話すしか。#奏斗#が俺の制服を掴んで止めようとしてるみたいだけど、俺は無視して続ける。

 「俺たちの住んでいた元の世界には、『イナズマイレブン』というアニメやゲーム、漫画などが存在します。俺も#奏斗#もイナズマイレブンが大好きで、アニメも毎週欠かさずに見てるしゲームも今まで出ているもの、すべてプレイしています」
 「イナズマイレブンって、十年前に
 「……まさか、そのアニメとかゲームとかに俺たちが出てるとか言うんじゃないよなぁ?」
 「そのまさかです」

 俺たち以外の全員から驚きの声が上がる。そりゃそうだよな、もしこれが逆の立場だったら俺だって信じられないし意味が分からない。

 「イナズマイレブン――天馬たちの世代というかみなさんが出ているのはイナズマイレブンGOというタイトルですが、俺たちの世界ではアニメもゲームもホーリーロード全国大会まで既に終わっています。だから管理サッカーも知ってたし、アルティメットサンダーも知ってるし、竜巻が発生する位置や動きもアニメで見たとおりだったので知ってたというわけです」
 「し、しかし、俺たちがそっちの世界ではアニメでやっているんだとしたら、なんでお前らはこの世界に……」
 「それは俺たちも分かりません。俺も#奏斗#もイナズマイレブンの世界に憧れてはいました。そしたらある日突然ここに来ていたので。元に戻れる方法も分かりません。必殺技も化身も、見よう見まねでやってみたらできたもので、とにかく俺たちもよく分からないんです」

 このくらい、か。このままの状態が続くのは嫌だけど、だからってこんな話、事実でも信じてもらおうなんて思っていない。うーんと唸って全員が黙り込む。一通り説明し終えてはぁと小さくため息をつくと、#奏斗#の腕を引いてロッカーへ向かう。仮にこれでサッカー部内の状況が悪化したとしても、次の試合は迫ってるんだし。

 「俺たちがそっちの世界ではアニメとかゲームの中の話だっていうならさ、証拠見せてよ」

 制服からユニフォームに着替え終えて練習に向かおうとした途中、狩屋の声が聞こえた。俺も#奏斗#も同時に立ち止まって少し考える。証拠、ねぇ。狩屋の家の事情はさすがに言っちゃダメだろうし。

 「証拠……狩屋の必殺技、ハンターズネットはヒロトが名前をつけた。なぜなら狩屋のネーミングセンスがひどかったから」
 「うぐっ」

 それまで黙っていた#奏斗#が不意にぽつりと呟いた。なるほど、そのネタがあったか。狩屋にネーミングセンスがないのは事実とはいえ、そんなにはっきりと言わなくてもだな……。顔をひきつらせている狩屋に小さく手を振ると再び歩き出した#奏斗#の背中を追った。


 「ねぇ#奏斗#! #音哉#! 一緒に帰らない?」
 「天馬……」

 部活を終えて帰ろうとしたら、天馬に名前を呼ばれた。振り返ると隣には信助、と輝、そして少し後ろに狩屋。
 返事に迷っていると、にこっと笑って天馬と信助がそれぞれ俺と#奏斗#の腕を引っ張る。

 「……天馬たちは、なんとも思ってないの? 俺たちが違う世界からここに来たってこととか……」
 「うーん、そりゃあびっくりはしたし、よく分からないけど……」

 サッカー棟を出た後で、#奏斗#が小さく呟く。俺も気になってはいる。多分、天馬たちは味方になってくれるとは勝手に信じてるけど。
 あの後もちろん先輩たちは信じてくれなくて、部活中はずっと肩身が狭かった。取りこぼしたボールを取りに行けば無言で睨まれるし、チームに分かれて練習することになった時はパスすらもらえなかった。

 「でも、#奏斗#も#音哉#も悪い人には見えないしね! 僕は化身が出せるのも、必殺技をいろいろ覚えてるのもすごいと思うけどな」
 「僕もそう思います。っていっても僕、入部したばっかりだからよく分からないっていうのもあるけど……二人ともサッカー上手だから、尊敬します!」
 「狩屋もそう思うでしょ? 二人は悪い人じゃない、って」
 「お、俺は別に……いいとか悪いとかそんなのは……」

 ……どうしよう、泣きそうだ。最初に信じてもらえなくてもいいとは言ったけど、味方がいるっていうのがこんなにも心強いなんて。

 「俺たちは二人のこと信じてるから。だから二人とも、元気出してよ」
 「まあ、あんなこと言われたら誰だって信じられないよなぁ。信用させるって方が無理じゃねえの」
 「そんなこと言って、狩屋くんも本当は信用してるんでしょ?」
 「う、うるせえ!」

 なんだかんだで狩屋も信用してくれてる、んだろうか。……本当にありがとう、天馬、信助、輝に狩屋。
 #奏斗#の表情にも笑顔が戻っていた。まだまだ先輩たちの風当たりは強いだろうけど、なんとかなるさ。そう信じよう。




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