折原のさらさらとした髪の毛を弄るのが最近の日課になっている。膝の上に置かれた頭に手を乗せ、くるくるとその艶やかな黒髪を指に絡める。するりとすぐに逃げてしまうそれはまるで折原のよう。何度触れても飽きがこない。

「それ、癖?」
テレビから目を離さずに折原が問う。もしかして嫌だっただろうか。でも、その心地良さを覚えてしまったわたしの指は動きを止めることを知らなかった。聞いてる?と言われ、うんと答える。失笑にも似た乾いた笑いが彼の喉を通る。生返事だと悟られたのだろう。でも決して怒ってはいないようだった。
「それやめて」
「嫌?」
「違う、眠くなる」
言われてみれば確かにいつもこの体勢になると折原の瞳は少しだけとろんとする。それは横になってるからだろうと思っていたんだけど、どうやら原因はわたしの指にあったらしい。それでもやめないわたしの腕を掴んで自分の顔の方へ持っていく折原。何をするかと思い見下ろしてみれば、その指に噛み付いてきた。甘噛みに近いそれは決して痛くなかったけど、熱の篭った口内とねっとりとした感覚に違和感を覚える。反射的に指を引くとついに歯を立ててきた。
「痛い」
中であたたかいものが動き回り、何度もわたしの指を舐める。なにしてんの、変態。そう心の中で罵倒するとちゅぱっと音を立てて解放される。何故か満足気な折原に若干引いた。
「しょっぱい」
「うるさいな」
「どきどきした?」
「うるさい変態」
「名前はなんでそう冷たいかなあ」
よいしょ、とソファに手を付いた折原が起き上がる。テレビの電源を落として――あ、見てたのに――隙間を詰めるように座ると、わたしの身体に体重を預けながら肩を抱く。少しだけ傾いたわたしはソファに手を付いた。そんな口にはお仕置きしなくちゃなと折原の細くて長い指がわたしの顎を捕らえ、無理矢理に唇を奪われる。薄いそれがわたしに触れると、啄ばむように何度も触れては離れた。キスをしながら身体を動かす折原の足がわたしを跨ぐ。そして向かい合うように膝立ちした折原が、わたしから離れて見下ろしてきた。ニヤリと弧を描く唇を見て眉を顰める。
「なによ」
「ん、名前は上から見下ろすと何倍も可愛く見える」
「折原それ、単純に人の上に立ちたいだけでしょ」
「まあそうかもね。というかいい加減折原って呼ぶのやめなよ」
「んー、ダメ」
「そうやって名前は俺の上に立ったつもりでいるんだろ?」
「まあ、」
「ほんと、わかりやすい」

でもそんなの許さないから。猫背になり、その口がまたわたしの口を塞いだ。首に回された腕の先で、折原の指がわたしの髪を弄ぶ。なんだ、折原も好きなんじゃん。確かに眠くなるっていう感覚はわかるかもしれない。でもそれって、言い換えれば心地いいってことじゃない。そう解釈した途端、さっきの折原の発言が妙に可愛く思えてきてくすりと笑った。それに気付いた唇が離れ、少しだけへの字に曲がる。

「なに」
「なんでもないよ」
「なんでもないのに笑うとか失礼だね」
「いやいや貴方は常にそうでしょ」
「俺は楽しい時にしか笑わないよ」
「じゃあ折原は常に楽しいんだ。変わってるね」
「そんな変わり者を愛してるのは何処の誰でしょう」
「……うるさいなあ」

折原はほんと、息してるだけでもうるさい。余計な一言さえなければまだマシだというのに、どうしてこうも人を呆れさせたり怒らせるのが得意なのだろう。でもそんな折原が息をしなくなったら、

「俺は愛してるよ、名前のこと」

この言葉も聞けなくなるしさらさらの髪も触れなくなるので、うるさいままでいい。

130201
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