【猫の見る夢】ヤマトは夢を見ている。 毎日毎日。 彼は夢を見ている。 眠らない彼は夢を見ている。 ――朝が来た。 別に、朝が本当に向こうからやって来たわけじゃない。 だけどそう表現する。 だから、朝が来た。 すごく怠い。 夜は仕事もなくて、皆寝ていて、暇。 朝を待っている。でも、朝は苦手。 眩しいのは、苦手だ。枕もとの煙草を手に取る。 別にこれが必要不可欠なわけじゃない。なくても大丈夫。でもあるといい。 ……どうでもいい。 カチリとライターを点ける。 ジッポ、無くしたな。椿嬢に貰ったんだっけ。 火が点けられれば、何でもいいのに。 カートン買いした時に付いてくる安物のライターを、ポンとベッドに投げ捨てる。 火、ちゃんと消えてたかな。ま だ点いていたら、火事になって、ベッドが燃えて、俺も燃えて、部屋も燃えて、家も燃えて……ハア、と白い息を吐き出す。 寒いわけじゃない。毒ガスを吐いただけ。 まあ、どうでもいいんだけど。 三分の一ほど残った吸い殻をギュウギュウ握り潰して、風呂場に向う。 椿嬢は、結構、潔癖だから。 シャワー浴びて行かないとね。 風呂場の床は滑りやすい。 ツルンと回転して、俺の頭が御開帳するかもしれない。 俺の中身ってなんだろう。多分、普通にヒトなんだ。 頭を洗ったり、体を洗ったり、湯気を眺めたりして、風呂場を後にする。 俺はヒトだから、何か食べなくちゃな。 台所に向う。何もない。何も買っていないから、当然だ。 パンもコメもヤサイもクダモノも。 コンロもナベもフライパンもシャモジもオタマも。何もない。 水はあるけど。捻れば出るけど。水を飲んで、台所を出る。 盛大に濡れた口元を適当に拭う。 時計を見る。午前四時。あと十五分。 着替えを済ませて、持ち物を確認する。 忘れ物をしたら面倒臭い。拳銃持ったかな。 あとスタンガンと……なんだ、これ。麻縄?入れたかな。まあいいか、入れておこう。 時計を見る。あと十二分。 ベッドを見る。スプリング、シーツ。四角い。白い。枕がちょっと赤い。 耳から血が出る所為だ。 なんか頭の中がもぞもぞして、ほじくっちゃうんだよなあ。 時計を見る。あと十分。特にやることもないから立ったまま出勤時間を待つ。 特にやることもないから何もしない。あと九分。何か考えるわけでもない。 ぼんやり。あと八分。あと七分。あと六分。あと五分。あと、………。 時間になって、歩き出す。玄関に向って、一足しかない靴を履く。 開錠して、ドアを開く。と、目の前には天井が見えた。 おはよう。朝が来た。 (18/20) 前へ* 目次 #次へ栞を挟む |