すとろべりぃまぁぶる(バントキ)


※特殊設定として男性に生理が訪れています。



ぴきん、ぴきん、ぴきん――
ずき、ずき。ずき

「あァ…しんどい…」
「トキくん、大丈夫?」
「ン…きっと、ネ…ちょっと立てないかなってくらい?」
「それかなりひどいよね!?早退したほうがいいよ!」

顔色が悪い、と言われた。目に光がない、と言われた。俺としてはいつも通りに振る舞っているつもりなのに、それはうまくいっていないようで。ふらふらと立ち上がって眩暈を耐えきったところで友人の言葉が正しいことを受け入れる。こりゃ、午後の講義に出たところで意味がないだろう。

「お言葉に甘えて…そうしとく。ノートだけ頼むネ」
「任せて!お大事にね?」

俺はおぼつかない足取りで教室から出た。視界がぐらぐらする。息があがるのもいつもよりはやい。家に帰るまで我慢しないと。自転車通学じゃなくてよかった、と俺は思う。しかし、この後で真逆のことを思うことになろうとは思わなかったけれども。どうにか最寄りの駅までたどり着くと、ホームのベンチに腰掛ける。息をゆっくり吐いたところでぴきん、と腹部に針を刺すような痛みが何度も連続して起こった。ああ、クソ。俯いて背をまるめることでその衝撃を分散させようと努力する。そうしているうちに波は収まったようでホッとした。

「電車、乗れっかなァ…」

まずベンチから立ち上がれるかどうか、だ。電車が近づいてくる音を聞きながら、ベンチに手のひらをついてできるだけゆっくり臀部をあげていく。どろりとした感覚に吐き気を催しかけたが、すんでのところで抑え込んだ。なんとか電車に乗り込んで椅子に座ろうかと思ったが、立ち上がるのに労力がいるのであれば立ちっぱなしでいるほうがいいのではないか、と思う。最寄から家まで一時間もかからないのだから立っているほうが結果としていいのかもしれない。
そして、ここで俺は自転車通学に焦がれることとなる。

「あれ、何してるんですか、」
「…ア、アンタ…ッ」

ひらり、と手を振る青年に対して手を振りかえすことはできない。あまりの衝撃にどう反応するべきか困り果ててしまう。固まったまま動けなかったけれど、彼が近づいてきてハッと我に返る。その人物は同じ大学の友人――いや、そうではないかもしれない、加害者というべきだろうか。俺は絆創膏という青年から熱烈なアプローチを受けている、ただし、家具としての。

「なんだか具合悪そうですね…早退ですか?」
「そ、そういうアンタはサボりかよ!」
「ええ、別に今日はいいかなって」
「大学向かえヨ!」
「こんな青ざめた友人ほっとけませんし、家までついていきますよ。」

友人、そう思っているかは定かではないが便利な言葉である。ここでぎゃあぎゃあと騒いだところで誰も助けてはくれないだろうことは理解できた。こうなったら部屋に入ることだけは阻止しなければいけない。できるだけ、引き攣った表情を携えて「じゃあ、頼むネ」とだけ口にする。そういうと少しだけ彼は嬉しそうにしてみせた。



結果として俺の部屋にルンバ野郎は入ってしまったわけだが、あれは不可抗力である。ドアの前でそのまま足腰に力が入らなくなり、立てなくなってしまったのだ。情けない限りだが、俺はアイツに部屋へ運び込まれた、もちろん腕を引っ張ってもらっただけである。俺は這うようにしてトイレへと駆け込んだ。俺をこうして苦しめている原因は男性ならば来るはずがない現象だった。俺の性別が違っていた、なんてことは全くなく、正真正銘俺は男であったが、それでも俺の身には女性に起こるそれが起こっていた。まず独特の匂いが鼻につき、どろり、とした赤黒いそれが視界に映りこむ。これは生理というやつだ。だから子宮のない俺とは縁がないはずだった。未だにこれが生理だと納得していないが、痔でも血便でもないようで、ただ腹部がよじれるような痛みと倦怠感や眩暈が襲ってくる。症状として一番近いのがそれであるということは理解したワケだ。何より困ったのはそれを吸収するためのナプキンをどこで購入するかというところだ。とりあえずはちょっと家から離れたコンビニで購入したが、あとはネットショッピングすることにした。今日の夜には届いてくれるだろう。そんなに長く続かないはずなのでこれで乗り切れるはずだ。

「トキ?」
「別に、待ってなくても、帰ってイイからぁ…」
「鍵かけた個室で倒れられたら困りますから」
「…あーもう!」

バァン、とドアを開けて、ふー、ふー、と息をしながら座り込む彼に目を向ける。こっちとしては予測不可能の不可解な状態に置かれているのだからできるだけ放っておいてほしいところなのだ。しかし彼はこちらの考えなどおかまいなしにぐい、とさっきと同じように腕を引っ張る。

「え、あ、ネェ、待ってッ…!」

どさり、とベッドに連行されて上から毛布を被らされた。身体を寝かせることで少しだけ楽になったように感じる。首を動かして隣の彼を見るとその視線によって彼もこちらを見た。

「なんですか、」
「…なにしてンの」
「看病、ですかね。ゆたんぽあります?ホッカイロでもいいですけど」
「…どっかにあるかも、だけど…わかんない」
「じゃあなにか作りますね、キッチンかりますよ。」

なんだか調子が狂いそうだ。本当に看病して心配してくれているのかもしれない。俺はキッチンに立つ彼を見て旦那の立ち姿を思い出す。こうやって俺が体調崩すと慣れない手で料理をしてくれたものだ。不恰好で味は極端だったけれどもおいしかった。旦那と違って、料理はできたようで簡易的だがおかゆが出てきた。固形物を食べるのはしんどそうだったので助かった。食欲自体はあるのに喉を物が通らないのは苦しい。おかゆはその点するりと喉を通ってくれた。その間じっと俺を見ているもんだからどう反応していいのかわからない。俺はおかゆを食べきると声をかけようとした。

「…アリガ…」
「じゃあ、もういいですよね」

感謝しようと思った。その途端にベッドが軋む。端正な顔が俺のことを見下げている。腕はぎちり、と掴まれていて体はだるくて動かない。おかゆを食べた後で身体があつい。ぱちくりと瞬きしたものの状況は全く変化を見せたりしなかった。

「家具が倒れたら困るから、点検しないと思ったので」
「やっっぱりそういうことかヨ!!クソ!俺の感謝の気持ち返せ!」
「別に俺は最初からそのつもりでしたし勘違いしたのはトキですよ。」
「ホントいい加減にしろよ!」
「あんまりうるさくするとお腹に響くからやめたほうがいいですよ」

確かにそう言葉を交わしたあとぐらりと視界が揺れた。自分の身体が自分のものではないような感覚が気持ち悪い。息を吐き出したところでその湿った唇を塞がれる。もがいた行動は意味をなさず、口の端から舌が這入って内側の歯列をなぞった。

「っ、ネェ、なんのつもり…!?」
「何度も同じことを言わせないでください」
「納得できないからネ!?」

彼は何重にもなった毛布の中へと入りこむと俺の身体を壁と向かい合うように追いやった。冷たい手が俺のベルトをかちゃかちゃと外す音がする。じたばたと抵抗するものの、もう片方の手は俺の両手首を壁で抑え込んでいるためうまく逃れることができない。やっぱり早退なんてするんじゃなかった。そんな後悔も時すでに遅しである。外されたベルトは俺の腕を拘束するために使われて、彼の両腕が自由になる。ゆるくなった俺のズボンへ冷たい手が伸びて割れ目をなぞった。

「っ、やめ、…」
「やっぱりどろどろしているのはここなんですね」
「ん…ッ、ぅ、あぁ!」

びくん、と身体が跳ねる。目の前がちかちかして思考力が低下していくようだ。これじゃあまるで女性みたいだ、と思う。割れ目をなぞっていた指先が股を通り抜けて別のものに触れ、ゆっくりと手をそえる。そこは熱を帯びており、中心に冷たい手が触れたというのに体温が下がるのではなく逆に上がっていった。いつもならこれくらいで反応したりしないものだが身体の変化に伴ってもしかしたらホルモンバランスがおかしくなっているのかもしれない。

「ん、っ…は…ァ、あ…」
「こっちが血のせいで濡れてるの、女性みたいですね。」
「もう、じゅうぶん、だろ…ッ、はなせ…」

相手の真意がわからず、ただ白い壁に視線を向けることしかできない。表情をうかがってみたところで俺はアイツの真意なんてわからないのだろうけれども、誰のともわからない手が自分をまさぐることが気持ち悪く感じてならない。知り合いの彼だからいいというわけでもないのだけれどもそこらへんはあくまでも気持ちの問題である。それを汲み取ったのかそうでないのか定かではないけれども、ふぅ、と耳に息を吹きかけられた。ぞわり、と背中を寒気が走ったところで追撃の甘噛みを食らう。

「ちょ、っと、俺、今日、ホント、ダメだから、ァ」
「いいですよ、出して」
「そういう問題じゃ、な…ッ、ァあ!」

びく、びくんっ、と体が痙攣して固くなっていたそれは熱を孕んだ白濁を吐き出すことで少し緊張を緩めた。射精後のふわふわした感覚に浸っていると拘束されている腕をぐい、と引っ張られ、仰向けにさせられた。そこでようやく、久方ぶりに彼の顔を見ることができた。全身から熱が溢れんばかりに放出されていることがわかる。きっと今俺の頬は赤いのだろう。しかし目の前のアイツはこの状態でもいつもと変わらずにぼんやりとした顔でそこにいた。せめて何らかのアクションを起こせ、じゃないと俺がおかしいみたいだろ。少しの沈黙ののち、ちょうど耳の真横に手をついて俺と彼の距離が縮まる。

「……トキ、」

囁くような低めの声が全身を駆け巡る。ああ、クソ。無駄に顔と声だけは一般的にかっこいいからずるいのだ、こいつは。ちゅ、と額にキスをされたあと、もう片方の手でどろどろの秘部に触れられる。血で濡れてきっとグロテスクになっているであろうそこを指がほぐすようにくるくると円を描くような動作で動く。なぜか冷静にシーツが大変なことになっているだろうからはやめに洗わないと、なんて考えた。くちゅ、という音を聞くたびに足元で起こっているであろう光景を想像してしまう。ひく、と下が力んだかと思えばその途端にゆるゆる動いていた指がそこへ入る。

「っぎゃア!?」
「色気ないのはわかってるんでせめて声我慢してくれませんかね」
「注文つけてンじゃねぇよ!言っとくけどコレ強姦紛いだからねェ!?」
「和姦でしょう、口轡までしてませんし。家に迎え入れたのもトキですし。」

なんと白々しい言い訳だろうか。小さくため息をつくがそんなこともお構いなしなのだろう。中にはいった指は様子を見ながら中で関節を曲げる。異物感と圧迫感が下から競りあがってきて気持ち悪い。さっきまで火照っていた顔がさぁっと冷めていくのがわかる。中をかき混ぜられているせいか上まで鉄の匂いが押し寄せてくる。さらに気持ち悪くなり、ぼんやりと天井を眺めていると指が増やされた。

「ッ…は、ぁ………!」
「前戯長いほうがキツそうだし、もう入れますよ」
「え、なに、本番…」
「しますよ」

足を抱えられ、乱雑に中をかき混ぜ終えた指がなんの合図もなく引き抜かれる。ひくひくと出入り口が動き、締まる前にすばやく裂け目に熱いものが当てられ、ふる、と身体が震えるのを感じた。これが、性行為だということを思い出させられる。どきどきという心音が体中を支配して、下腹部の痛みを感じることはなかった。ときたま思い出すように視界がぐらつく程度だ。けだるさは未だに残っているが、今は与えられる行為を受け入れるだけ。拒むほうがめんどうだと言いたげな体が恨めしい。ぬち、とそれが入口を広げ中へと這入ってくる。最初の感想は気持ち悪い、だった。指とは比べ物にならないそれを俺の身体が攻撃だと感じ、押し返そうとするがそれは他人の意思によって動いているため、さらに奥へと来ようと進んでくる。人体の防衛本能とはよくできているな、と感心させられたが俺はそれどころではなかった。

「ッあ!い゛ッ…っう、ぐ、ぅ…っか、ぁア!」
「…っ、ふぅ…」
「あッ、アぁあ゛!っ、ン゛ん!」

もはや意味のある単語を口にすることすらままならず、はくはくと口を開いて、痛みを表現するためだけに音を出す。鉄の匂いがより強くなった。肩で呼吸をして、空気が体内に入るたびに下腹部が締め付けられるような痛みを伝達するのが死にそうなくらい痛い。目からぼろぼろと涙がこぼれて乾ききった唇が切れるのを感じながら体内から水分がすべて飛んでしまいそうだ、と思う。動物みたいに、子供みたいに、騒ぎ立てる自分が恥ずかしくてせめて顔を隠したい、と思うものの、腕は拘束されているために俺はこの姿を晒すしかないのだ。一気に熱い肉感が奥まで迫り、背中を反らす。俺の腹部にぴゅ、ぴゅっ、と白濁が散らされた。

「っ、は……ァ……っ…」
「まだ、入れただけですよ」
「あー…?」
「そんなだるそうにしてる暇なんてないですからね、」

奥まで満たされたそこからようやく収まったというのに、それが後退していく。まだ達していない膨らみを持ったそれが、半分以上外に出たところで、彼の腰が動く。パァン、と肉と肉がぶつかる音と共に圧迫感が戻ってくる。自分がイったのと、それが出ていったから安心していたのかもしれないが、そんなことはなく、またそれは戻ってくる。よくよく考えてみてもいれて終わり、なんてあり得ないのだ。腰が打ち付けられて俺の身体も一緒に動く。

「ひっあ゛、ア!も、無理、だッ…てば…!」
「もう、少し…ですってば…」
「ん、ン!死んじゃ、ぁッ…」
「…なに、言ってるんですか」

彼はちゅ、と乾ききった唇に湿ったそれで口づけた。ぺろり、と舌を出す彼の唇は血のように真っ赤だった。

「家具は、生きてないじゃないですか」

そんな言葉と共に彼は中で射精する。はー、と息をつくとそれが引き抜かれた。ゆらぐ視界の端にどぷ、と零れた鉄臭い赤色と生臭い白がまだら模様をつくるのだけを俺は最後に目視した。



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