小説 | ナノ


▼ 言葉



何気なく図書館で借りた物語の本を読んでいる時の事だった。
自分の気持ちを言葉で伝えるのは大事だと、その本は語る。
思えば、本心……もとい愛の言葉など口にした事は無い。
恋人である名前からは毎日と言って良いほど言われているが、俺からは言った事は記憶のある限りは無いだろう。
これはほんの気まぐれだ。
読んでいた本に栞を挟み、食事の準備をしている名前を呼び寄せ、目の前に立たせた。

「どうしたの?ご飯ならそろそろ……」
「愛している」

言葉を濁すでもなく、目を見て真っ直ぐに伝えた。
最初は理解出来なかったのか、表情が一切変わらなかった。だが、暫くするとみるみる顔が赤くなっていく。

「……えっ、えっ?」

顔をこれでもかと言うほど赤くさせながら混乱する名前に、思わず笑ってしまう。そうすれば、彼女はハッとしてふくれ面になる。コロコロ変わる表情に、また笑えてくる。

「珍しく冗談言うね」
「冗談だと思うか?」

体を抱き寄せ、耳元で囁くと、今度は耳まで赤くなる。その耳に軽く口付けをすると、首に腕を回し抱きついてきた。

「……冗談じゃないの?」
「どうだろうな」

肝心なところで、自分でも少し照れてしまった。なんて情けない。
体を離し、読んでいた本を再開すると、名前の悔しそうな唸り声が聞こえた。

「バージル、さっきのもう一回言ってよ」
「気が向いたらな」
「ケチ」
「いつまでもそこに居ると、食事が焦げるぞ」

膨れっ面になりながらキッチンの方へ向かう名前を横目で見た。その膨れっ面さえも、嫌いでは無いと思える。
またあのコロコロ変わる表情を見れるのなら、気持ちを伝えるというのも悪くは無い。





END

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