小説 | ナノ


▼ 初雪





暖かい店内から外に出ると、ひんやりとした空気に体が震えた。
店内と外の温度差に尚更寒さを感じる。そろそろ出ようかと提案したのは私だが、もう少し居ても良かったかもとワガママな事を考えてしまう。

「ほら、これ使え」

後ろからマフラーを巻かれ、振り向くと京がいままで着けていた自分のマフラーを、私に巻いてくれていた。
お礼を言うと、雑に頭を撫でられる。髪が乱れるからやめてほしいが、意地の悪い京に言ったらもっとしてくるだろう。

「しかし、マジで寒いな」
「曇ってるし、雨か雪でも降りそうだね」

空を見上げると、昼過ぎにしては暗く、青空は見えなかった。
息を吐けば、白息が出てくる。それも僅かにではなく、くっきりと見える程に。

「なぁ、名前。傘、持って来たか?」
「折りたたみなら」
「半分貸せ」
「人に頼む時の言い方じゃなよ」

面倒くさいとでも言いたげな顔だ。だが、命令っぽい言い方に従うのは負けた気もするので、こちらも妥協するつもりは無い。

「荷物持ちに付き合ってやってるんだから、傘くらい貸せよ」
「うーん……そうきたか」

そう言われると弱いのを知っていて言ったのだろう。
無理矢理買い物に連れてきたのも、ほんの少しは悪いとは思っている。まぁ、今回は私の負けとして貸してあげよう。
自分の甘さにため息を吐くついでに、もう一度空を見上げると、顔に冷たくて柔らかいものが当たった。

「冷たっ!」
「おっ、降ってきたか」

言ったそばから、雪が降り始めてきたみたいだ。
そういえば、今年の冬になってから初めての雪だ。初雪、一緒に見られて良かった。と、京の横顔に少し目を移した。

「初雪だな」
「ん……そうだね」
「どうりで寒い訳だ」

同じ事を考えていた事に喜びつつ返事をしたが、私には目の前の京を見つめるので精一杯だ。
空を見上げる京の横顔は、いつもより少しだけかっこよく見えた。思わず見とれてしまうくらいに。
見とれていた、なんて恥ずかしくて勘づかれたくない、どうせバレてもからかってくるに決まっている。どうかバレていませんようにと、心の隅で呟いた。

「……これからどうする?」
「まだ寄るとこあるんだろ。もう少し付き合うぜ」
「もし帰れなくなったら、京の家泊めてね」
「あー、今日親父いたはずだけど……まぁ良いか」

ん、と手を差し出され、何事かと見つめ返せば、盛大なため息を吐かれた。

「な、なに!なんでため息!?」
「お前は鈍いからなぁ……期待した俺がバカだった」

誰が鈍いだと言い返す前に、乱暴に右手を取られ、そのまま私を引きずるように前に進み始めた。
手を繋ぎたかったのならちゃんと言えば良いのに。とは思ったが、寒さなのか照れなのか、京の赤くなった耳を見るとそれは少し難しそうだ。





END

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