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▼ 湿気




今日はやけに湿気の多い日だ。暑いしべたつくしで、どうもやる気が出ない。いや、やる気が出る方が私的には珍しいのだけれど。
普段より重くなる体を動かしながら、司馬昭殿に渡す竹簡を運んでいた。前が見えなくなる程積み重なる竹簡の山に、鍾会でも連れてくれば良かったと後悔する。

「……名前?おい、なんだその山は」

なんて良い頃に出てくる人なんだろう。素晴らしいと言ってやりたいが、きっと調子に乗るので黙っていよう。
残念ながら竹簡に隠れてしまって顔は見えないが、この生意気そうな物言いと声は間違いなく鍾会だろう。

「良いとこに来たね。ちょっと手伝って」
「断る。お前の頼みを聞くほど、暇じゃないんでね」
「司馬昭殿に渡すのだから、やっといて損は無いと思うよ」

少し考えた後、面倒そうな舌打ちをして、私の持っている竹簡を上から半分程持ち上げてくれた。
やっと見れる顔に、ありがとう、とお礼を言おうとしたが、思わず目線が鍾会の髪に行った。
いつもより跳ねている。いや、跳ねているというか、うねっているというか、爆発というか。とにかく凄い。

「なんだ。持ってやったのにお礼も無いのか」
「鍾会。その髪」
「は?……!まさか、髪の跳ねはさっき直したはず……」

渡した竹簡を直ぐ様片手で持ち、焦った様に自分の髪を押さえながらぶつぶつと独り言を口にしていた。

「あのさ」
「なんだ!」
「笑って良いかな」
「良いわけないだろ!」

怒鳴りながらも、司馬昭殿の部屋がある方向へ早足で向かって行った。正直、私は笑い出しそうなのを我慢するので限界だ。これは司馬昭殿も笑いが我慢が出来ないだろうと、期待を込めて竹簡を届けに行った。

案の定、大爆笑する司馬昭殿。それにつられて同じく大爆笑する私。それと、司馬昭殿と一緒に居た賈充殿にも静かに笑われ、機嫌を損ねた鍾会のご機嫌とりに数日掛かってしまったのでした。






END

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