小説 | ナノ


▼ 指輪





庵と同棲している家に帰ると、言葉の一つもなく、無言で小綺麗な小さい箱を渡された。
黒くて四角い、私の手のひらから少しはみ出すくらいの大きさだ。

「えっと……これは?」
「やる」

きっと庵の事をよく知らない人は、なんて素っ気ない人なのだろうと思うだろう。だが、私と庵はもう長い付き合いだ。彼は照れてる時に口数が更に減って素っ気なくなるのを知っている。

「プレゼント?今日、記念日かなんかあったっけ」
「ただの気まぐれだ」
「あら、珍しい」

とは言いつつも、プレゼントは嬉しいものだ。
開けても良い?と聞くと、止めるような返事は無かったので遠慮無く箱を開けた。
ワクワクしながら中身を覗くと、銀色に輝くシンプルな、私好みの指輪があった。
指輪を手に取り、間近で見てみる。何度見ても、そこそこにお高そうな指輪だった。
もしや、もしや、といろいろな期待が頭に過った。こんな高そうな指輪を渡され、それを考えない女性は居ないだろう。
唖然として指輪を見つめていると、とうとう庵が口を開いてくれた。

「不満か」
「あの、これはプロポーズってやつ?」

そのつもりはまったく無かったのか、庵は眉間の皺を増やしてうつむき、考え込んでしまっていた。
あれ、これって遠回しに振られてしまっているのでは?先程までの期待が一気に不安に変わっていく。
うつむく庵の顔を覗き込み、じっと目を見て返事を待つと、僅かに耳を赤くして、いつもより小さな声でぽつりと呟いた。

「その時は、それより良い物を買うつもりだ」

予想外な言葉に、くらりときた。
期待していたとはいえ、まさか庵からこんな言葉を聞けるとは、聞いていた私の方が照れてしまいそうだ。

「今日の庵、いろいろとズルくない?」
「ふざけた事を言っていないで、さっさと嵌めろ」

私の右手を引っ張り、薬指に指輪を通そうとする庵の右手に目が止まった。
私のと似たような指輪を嵌めている。少しの違いはあるが、ほぼ同じだ。
こんな指輪は持っていないはず。シンプルな物より、バンドマンらしくかっこいいのが多い。
先程と同じく、もしやと期待が過った。

「これ、ペアリング?」
「デザインが気に入っただけだ」
「私好みの気もするけど」
「……黙って嵌めていろ」

あ、誤魔化した。でも、否定はしないみたいだ。
庵は、私の右手に指輪を嵌めると、照れていたのか早々と私の元から離れてリビングのソファーに座ってギターを弾きだしてしまった。
薬指に嵌められたお揃いの指輪と、庵の可愛らしい反応に思わずにやけてしまう。





END

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