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▼ 膝枕





やってしまった。
俺の目の前には、血溜まりといつも座っているお気に入りの椅子だった物がある。
今では跡形もなく、ただの大きなゴミと化してしまった。
こうなってしまったのも悪魔が原因だ。いつも通り事務所の椅子に座り、仕事の依頼を待ちつつ、晩飯の片付けに行った名前を待っていたら、急に現れてきやがった。
思わずため息が洩れてしまう。
椅子だったものの前にしゃがみ、バラバラになってしまった椅子の破片を手で摘まんだ。ゴミになってしまったのを再確認すると、破片を元の場所へ放り投げる。

「なんか凄い音したけど……」

キッチンにまで音は聞こえたのだろう。長年、二人で悪魔を狩り続けたせいなのか、血にあまり慌てる事も無く名前は落ち着いた様子で事務所を覗いていた。

「見ての通りだ」

俺はその場から立ち上がると、名前は俺の隣でガラクタを呆れた様に見ていた。

「また買い直さないとな」
「壊した物は直しなさい。だっけ?」
「母さんと同じ事言うなよ」

そう言いながら座る事の出来なくなった俺は、事務所の端にあるソファーに寝転がった。
いつもは名前の定位置なのだが、今日のとこは少しスペースを借りよう。

「あ、場所取った」
「借りるぜ」
「それ、普通は取る前に言うんだよ。私は何処に座れば良いの」

名前は膨れっ面になりながら不満気に愚痴り始める。
何処にと言われても此処しかないだろうと、少し起き上がり、横になれば丁度俺の頭の位置になるだろう場所を軽く叩く。

「……膝枕?」
「ま、そうなるな」

これだけで全てを察してくれるとは、長年の付き合いは馬鹿に出来ない。
しかし、いまだに照れが抜けないのか躊躇っているようだ。だが、こういうのはほんの少しねだれば諦めてしてくれるのは知っている。

「してくれるだろ?」

やっぱり、思った通りだ。
名前は困りながらも、仕方ないとソファーに座った。そんな困っている名前とは違い、俺は遠慮無く膝に頭を置く。
ぬくもりに安心して、目を閉じた。こういうのもたまには悪くないと。

「寝るの?」
「かもな」
「レディかトリッシュが来たら、容赦無く突き落とすからね」
「マジで容赦ねぇな」

とは言いながらも、優しく俺の髪を撫でる名前に、ほんの少し母の面影が見えたような気がした。





END

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