小説 | ナノ


▼ 高所




調査の為に、ハンクとコナーと共に向かった先は、4階ほどある、他の物に比べたら小さめのビルの屋上だった。
まだ春先で、今の時期は恐ろしい程に寒くなるデトロイト市では、ここでの調査はとても辛い。温かい飲み物でも飲みたいなぁと思いながら痕跡を探し回っていると、手すりにブルーブラッドが僅かながらに付いているのを見つけた。

「コナー!ここにブルーブラッドが……」
「……」

調査となると、いつも歩き回って現場を調べ潰すコナーが扉の前からあまり動いていなかった。
なにか不調でもあったのかと思ったが、来るまでの車内でも変わった様子は無かったはずだ。

「コナー?」
「すみません、名前。今行きます」

というわりには、歩幅がいつもより小さい気がする。証拠品が見つかった時のコナーは、どちらかというとはや歩きなのに。

「……なんかあった?」
「何がです?」
「調子が悪そうというか、いつもなら喜んで駆け寄ってきてるのに」
「そういう気分もありますよ。名前にも、気分というものがあるでしょう」

変異してから生意気になった気がするのは気のせいか。
ようやっと私の隣に立ったコナーは、手すりに付いたブルーブラッドを舐めとり、分析をし始めた。さっそく分析が終わったのか、一瞬だけLEDリングがチカチカ光った後、手すりを掴みながら下を覗き込んだ。

「なんかわかった?」
「ええ。型番はVM500。市内のメンテナンス用アンドロイドですね。事件を起こした後、ここから下のベランダへ飛び移り、下の路地を通って逃げたのでしょう。少し下を確認してみます」

コナーは手すりを飛び越えて、ビルの下を確認しようとしたが。手すりを更に力を込めて掴んだだけで、そのまま動く気配も無くビルの下を見ている。

「……」
「行かないの?」
「ええ。行きますよ」

とは言うものの、やっぱり動かない。
コナーの隣に立って手すりから少し身を乗り出し下を見ると、前に行ったテレビ局程ではないがそこそこに高い。落ちて、運が良ければ助かるが、助かったとしても大怪我は逃れられない だろうという程だ。

「……高いね」
「ええ。高いですね」
「ちょっと怖いね」
「そうでしょうか?」

なんてこと無さそうに返答するコナーだが、やはり動かない。
まさかとは思うが、高いところが怖いのだろうか。コナーの肩を体が揺れない程度に軽く押すと、想像以上に体を跳ねさせて手すりから離れた。

「落ちたらどうするんですか!!」
「ご、ごめん……まさかそんなに驚くとは……」
「気をつけてください!!」
「は、はい……」
「コナー!お前の声外まで聞こえてるぞ!」

下で聞き込みをしていたハンクが、いつの間にか屋上まで上がってきていた。コナーの大きな声なら外に聞こえるのも無理はないだろう。また苦情が来てしまうかもしれない。

「犯人らしい目撃情報があった。さっさと現場行くぞ。外は寒いしな」
「はーい」
「わかりました、ハンク」

屋上から出ていくハンクに続いて、私とコナーも出口に向かった。
隣を歩くコナーをちらりと見ると、どことなく安心したように見える。

「……ねぇ、やっぱり高いとこ苦手でしょ」
「平気です」
「本当かなぁ」
「本当ですよ」

ムキになりながら否定するコナーに、ほんの少し笑ってしまう。そしたら、笑わないでくださいと怒られてしまったが。
こんなに人間らしくなったのは、変異してくれたからなんだろうなぁと思いながら、次の現場へ向かった。





END

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