▼ 花
朝から白龍は譲君と一緒に梶原家の庭に花壇を作っていた。嬉しい事に、私の為に作ってくれるらしい。朝食を食べ終わってからずっと作業をしていて、もう陽は頭の真上にいる時間帯。
小さな体で疲れていないだろうか。手に怪我をしていないだろうか。神様相手にする心配ではない事はわかってはいるが、私はどうも過保護なのだろう。ぽつりと心配だと呟いたら、朔にも笑われてしまった。
「神子!」
縁側で白龍達を見守っていると、作業が一段落ついたのか、此方に向かって笑顔で駆け寄って来てくれた。思わず此方も笑顔になってしまう。
駆け寄る白龍に目線を合わせて両手を広げると、勢い良く飛び付いてくれた。それを離さないように、私は白龍を抱き締めて頭を撫でた。
「お疲れ様。上手く出来た?」
「うん。花が咲けば、きっと神子も喜ぶよ」
「白龍、頑張ったからな」
少し遅れて、譲君が汗を拭きながらやってきた。譲君も白龍の頭をぽんぽんと撫でる。まるでお兄さんみたいだ。
「譲君もお疲れ様」
「先輩の支えになれればこの程度、なんともありませんよ。……花が咲くのは、まだ先ですけどね」
「ううん、気持ちだけでも嬉しいよ。ありがとう」
お礼を言うと、照れ臭そうにそっぽを向いてしまった。慌てるように水を浴びてくると奥に行ってしまった譲君に、ちょっとだけ笑ってしまった。
花壇の様子を見に、白龍と手を繋ぎながら花壇の前へ向かった。特別大きな物ではないが、立派な花壇だ。
「神子の好きな花ばかり植えたんだ」
「あれ、私言った事あったっけ?」
「譲が言ってた。どの色になるかはわからないけれど、きっと神子が好きだって」
流石幼馴染だなぁと、少し照れる。 きっと将臣君なら、適当にとか言うんだろうけど。そんな将臣君は今どうしているんだろう。夢で会ってはいるものの、やっぱり寂しい。
「神子、悲しい?」
「だ、大丈夫!ちょっといろいろ思い出しちゃって……」
今の私には白龍達が居る。大丈夫だ。多少の寂しさはあるけど、一人ではない。
心配させた事に申し訳無さを感じてしまう。悲しそうな白龍の頭を撫でて、もう一度大丈夫だと伝えた。
「神子、私はずっと傍に居るから」
微笑む白龍が愛しくて嬉しくて、思わず力いっぱい抱き締めてしまった。きっと、私達は本当にこれからもずっと近くに居るだろう。安心させる為の言葉かもしれないが、そう思えてくる。
「八葉が揃ったら、皆で花を見よう。それまでにはきっと綺麗に咲いているから」
「うん、約束ね」
指切りをして二人笑い合った。白龍の笑顔を見ると、不安も全て消し去ってしまえそうだ。
「あのー……お邪魔そうで悪いんだけど、洗濯を取り込んでも良いかな?」
気まずそうに顔を覗かす景時さんに、思わず跳び跳ねた。少し恥ずかしいところを見られてしまって、これからどういう顔をして景時さんを見れば良いのか困り者だ。
END
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