▼ 雨の日のその後
困った。非常に困った。
オドロキ君達が来るまでの少しの間、名前との二人きりで過ごすはずだった。
だけれど、その名前は僕の膝でよだれを垂らしつつ爆睡。まぁそれはまだ良いんだ。問題はこれからの事。
「あのー……そろそろ起きて欲しいなー……」
無言。
聞こえるのは外の雨音と彼女の寝息だけだ。
そろそろオドロキ君も心音ちゃんも来る頃だろう。流石に部下に見られるのは恥ずかしすぎるし、脚も痺れてきたし、どうしたものか。
頬をふにふにと突っついても、眉間の皺が寄るだけで変化は無い。
「まいったな……」
そこそこに幸せは感じるものの、危機感も感じる。それに、お腹も空いてきてしまった。
どうやって起こそうかと考えながら、名前の髪を撫でる。
このふわっとした髪が好きだ。
雨の日なのに、綺麗に真っ直ぐ伸びている髪を掬い上げて、軽く口付けた。微かに感じるシャンプーの香りに落ち着いてしまう。
そこまで触れても起きない名前の危機感の無さに、嬉しくもあって不安もあった。
どこまでも起きない物なのだろうか。試しに頬を軽く引っ張ってみると、彼女が唸るだけで起き上がりはしない。ここまでしたら流石に起きろよと心の中で突っ込んでしまった。
ここまでしても起きないならと、ほんの少し下心が出てきた。僕だって男だ、やる時はやるぞ。
名前の口に掛かっている髪を退かし、僕の顔を近付けた。
「おはようございまーす!いやぁ、雨凄いですね……って、あーーー!!!」
鼓膜が突き破れそうな程の大声で、くらりと来た。何事かと見上げれば、心音ちゃんが僕を見て焦っている。
「あっ、いやこれは……!」
「な、な、ナルホドさ……」
あわあわと、僕を指差す心音ちゃん。まるでまた殺人事件の容疑者になった気分だ。気持ち的にも、数年前を思い出すくらい頭が真っ白にもなっている。
「希月さん、だから出ちゃダメだって!あ、成歩堂さん、どうぞ続けて!」
「えっ?あっ、そっか!ごゆっくり!」
いつの間に来ていたオドロキ君に連れられ、心音ちゃんは慌ただしく部屋から出ていった。
あぁ、どうやって二人に弁解しよう。絶対に後で心音ちゃんにどうだったか迫られるだろう。
膝を見ると、穏やかに名前は眠っている。ほんの少し腹が立ったので、とりあえず彼女の頬を強めに引っ張ってやった。
END
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