小説 | ナノ


▼ おやつ



調査の合間に、ハンクに買ってもらったドーナツを車の中で食べようとしていた。
これで買ってもらうのは3回目。意外と面倒見というか、気が利く人だ。おまけにカフェオレまで買ってもらった。
粉砂糖が掛かっている物と、チョコが掛かっている上にカラースプレーが散りばめている物の2つだ。
美味しそうなドーナツにウキウキしながら、粉砂糖が付いている方の包み紙を開いて食べようとすると、隣に座っているコナーがじっと此方を見ていた。

「……食べる?」
「いえ、結構です」

そう言いながらも、視線が他の所に行く気配は無い。とてつもなく食べにくく、なかなか口の中に運び込めないでいる。

「えっと……なんかあった?」
「その食事、栄養的にいかがな物かと」
「?」
「率直に言えば、飲み物のカフェオレと、その数のドーナツでカロリーが……」
「それは聞きたくないわ」

あまりにも聞きたくなくて、コナーの口を手で塞いでしまった。
そりゃそうだ、こんなに甘くてチョコも砂糖も沢山入っていて美味しくて……これでカロリーが低いなんて栄養士や専門家が言っても信用出来ないだろう。
しかし、そんな事実を真っ直ぐに突き付けられると食べにくくなるものだ。だが、せっかくハンクが買ってくれたのに、食べないのも申し訳無い。当の本人は外で賭け事の話をしつつ、例の体に悪そうなハンバーガーと飲み物を頬張っているのが羨ましい。

「名前、そろそろ離してくれると助かるのですが」
「あぁ、ごめんね」

押さえていた手を離して、食べようとしていたドーナツを両手で持った。
暫く無言の間が続く。食べたいが、やはり気になる物は気になるのだ。
隣で姿勢よく座っているコナーをチラッと見ると、なんとなく閃いたかもしれない。

「ねぇ、コナー」
「はい」
「ちょっと食べてくれると嬉しいな」

持っていたドーナツをコナーの顔に寄せると、ほんの少し驚いたような顔をしたように見えた。直ぐ様表情を戻してしまったが。

「名前、アンドロイドに食事は必要ありませんよ」
「食べられない?」
「いえ、食べれますが無意味です。味覚はありますが、それが栄養になることはありません」
「食べれるなら、どうぞ」

そこまで言うならと、コナーは手に持っていたドーナツを自分で持たず、軽く此方に身を乗り出して私の手から一口噛った。
また、表情が変わった。驚いたような、でも明るくもあるような。まるで美味しい物を食べた時の人間みたいな表情だった。

「……美味しい?」
「わかりません。ですが、甘いです」
「じゃあ、美味しいね」

自分もそのまま一口食べると、コナーの言った通り甘い。そんでもって美味しい。お陰ですぐに食べ終わってしまいそうだ。

「アンドロイド相手に食事を進めた人を見るのは初めてです」
「んー、でも食べてくれて助かったよ、ありがとう。チョコのも食べるでしょ?」
「食べろと言うのなら」
「じゃあ、半分こね。ハンクが戻るまでに食べちゃお」

半分に割ったドーナツを渡すと、じっと見つめてからゆっくり口に入れた。自分の気のせいや思い込みなんだろうが、ドーナツを口に入れるコナーは、やっぱり少し明るい表情をしているように見えた。




END

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