残酷で優しい空みたいなあなた



こうしてただ鬱々と空を覆う分厚い雲を眺めていると、ときどき自分の存在意義がわからなくなる。

十七歳。常時、不安定。

僕は、強くない。
自分を守ることはもちろん、傷付けることさえ出来ない。

左手首のためらい傷はもう、かさぶたがとれかかっているし。死ななくてよかったと思うけど、生きててよかったとも思わない。
僕はたぶん、不感症なのだ。
でもあの日、確かにあなたは泣いていた。乱暴な言葉で隠していたけれど。僕を扱う指先はかつてないくらいに優しくて、そのとき久しぶりに胸の奥がくすぐったくなったのを覚えている。

『おい、』
『はい』
『もう二度とこんなことすんじゃねえぞ』
『どう、して』
『お前は俺のもんなんだ。勝手に死んでいい訳あるか』

あなたはいつも僕にひどくあたるし、体が壊れるくらいむちゃくちゃにされることも珍しくはない。
不感症といってもそれは精神的な部分の話で、体はどちらかといえば敏感で。あなたは悲しい目をして「淫乱」だと罵る。嫌じゃないわけじゃない。出来るなら僕だってそんなことされたくないし言われたくない。だけど、それはもう僕があなたのものだってことですべて片付けられてしまって。

屋上に寝転がってぼんやりと空を見上げる。独りきり。グレイのコンクリに蜂蜜色の髪を預けて。授業中だから誰も来ない。僕はワルではないけど落ちこぼれだから、迎えに来るクラスメイトも先生もいない。あなたの真似をして吸い始めたセブンスターは苦くて、不味い。

「寝煙草はやめとけ」

目を閉じていたらふいに上からだるい声がふってきた。くわえていた煙草を取り上げられる。瞼を持ち上げると、あなたがそれをくわえてしゃがみ込んでいた。

「お前、授業は」
「出ない」
「あっそ。つまんねえもんな」
「うん」

あなたは煙草の火を床に擦りつけて消すと、さも当たり前みたく覆いかぶさってきた。

空が、消える。

「おら、口、開け」

言われるまま小さく開けた口に、生あたたかい舌が滑り込んでくる。苦い。息がうまく出来なくなって、あなたの制服のシャツをぎゅうと掴むと、あなたはキスをやめて耳元で低くかわいいと呟いた。

驚い、た。
そんなこと、はじめて言われた。

「んだよ」
「かわいい、って、」
「思ったから言ったんだよ」
「…うん」
「かわいいよ。お前はかわいい」
「もう、いい、」
「逃げんな、俺の言葉から逃げんなよ」
「ん…んん」



鬱々とした空を遮ったあなたは僕の空で、たぶん今のところ僕の存在意義は、あなた。
だって、僕がいなくちゃ困るって、乱暴で悲しい目が、そう言っている。



Fin.



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