小さくて可愛いモノが好きだ。
犬ならトイプー、猫ならマンチカン、うん、可愛い。
俺の住むマンションはペット禁止のため残念ながら飼えないけれど、いつかは飼いたいと考えている。

マサトも可愛い。背もちっちゃいし、目なんかくりくりしてるし、あの甘えたな喋り方もたまんない。だけどマサトにはタカシという恋人がいるから、残念ながら俺が出せるのは下らないちょっかいくらい。手なんか出そうもんなら、多分しばらく学校に来られない体にされてしまう。

かくして、こんなにも可愛いモノが好きなのに、なかなか自分の手の内で愛でることができない現状に諦観気味な日々を送っていた俺。
ところが今夜、久々に手の届きそうなところに可愛いモノを見つけてしまった。出逢ってしまった。
それは、たまたま同じライブに出ていたギャルバンドのベーシスト。待ち時間に何の気なしに舞台の袖から覗いた先に居た彼女に、気がつけば視線が釘付けになっていた。

明るめに色を抜いた髪にピンクのエクステをつけて頭の高くで短いポニーテールを作っているせいで、一見元気そうな印象なのだが、ステージ慣れはしていないようで、彼女は俺の視線の先で、終始照れくさそうに、そして控えめな笑顔でベースを演奏していた。楽器がとても大きく見えるくらい、華奢な体つきもよかった。

久々の出会いに興奮した俺がそばにいたタカシに「ベースが可愛い」と何度も言うのに、タカシはまるで興味ない様子でふうん、だとかへぇ、だとか適当な相槌を打つだけで、悔しいかな同意は得られなかった。




ライブ後、タカシ不在のまま参加した打ち上げの席で、なんとか目当ての彼女の隣に座ることができた。近くで見てもやっぱり可愛い。

「俺、沢っていうの。キミは?」

主催者のハイテンションな乾杯の音頭を待って早速話しかけてみると、彼女はにっこり笑って
「安曇野 楓、です」
と答えてくれた。

「楓ちゃんっていうんだ、超カワイイ名前だね。似合ってる。高校生?」
「高2です」
「なんだ、タメじゃん。じゃあ今から敬語なしね、仲良くしてよ」
「ふふ」
「どうかした?」
「沢くんって、見た目とキャラ違うなって。大人しそうなのに、」
「あ、それよく言われる」

黒髪短髪で長身、細い眉とつり気味で切れ長の目という風貌から、ギタリストよりは硬派で無口な体育会系男子だと思われることが多い。何故か一番言われるのは、「弓道部っぽい」。実際は弓なんか一度も持ったことがないし、運動は得意なほうだけど別に好きという程でもない。青春っぽく汗を流そう、とか、そういうのには向いてない。暑苦しいじゃん。

「俺、余計なことまでしゃべり過ぎちゃうんだよね。可愛い子見ると、緊張しちゃって」

ここで、わざと少し顔を近づけて、にっこり。
なめんなよ、合コン百戦錬磨(但し、その後続いたためしなし。)!
案の定、楓ちゃんは少し恥ずかしそうに俯いて、黙り込んでしまう。
俺は彼女の薄く赤に染まった耳元に更に顔を近づけて、そっと囁いた。

――このまま二人で、抜け出さない?




あんまり露骨に二人きりでその場を抜け出すのはスマートじゃないと判断した俺は、彼女に先に行くよう指示し、少し時間をおいてから自分も店を出た。





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