浴室で愛を焦がそうか



来週の金曜日、俺たちは出逢ってから一年になる。
出逢ったその日に恋に落ちたから、恋に落ちてからもちょうど、一年。

ユタが、
「トウヤは何が欲しい?」
と尋ねてくれたので、
「俺とユタが入ったらいっぱいになるくらいのサイズの、真っ白な猫足のバスタブが欲しい。足は褪せた金色がいい」
と答えた。

別に心からそう思ったわけではなくて、ただ、夕べ二人で見たフランス映画で、恋人たちがそんなバスタブで幸せそうに愛を語っていたから。
それが少し、うらやましくて。

ユタは少し考えてから、
「それは、難しいかもしれない」
と、俺のこめかみを緩く押さえながら、すごく残念そうにつぶやいた。

ユタは俺の望みを叶えることが生きがいのようだから、もしかしたら俺は、とんでもない失敗を犯してしまったのかもしれない。
真っ青なふたつの瞳が揺らぐのを見たくなくて、俺はユタの薄いくちびるを無理矢理にふさいだ。


真昼のユタのくちびるは、乾いた月の味がした。


真っ白な部屋に、飴色の太陽光が射し込んでいる。
床のタイルに座り込んだ俺に、ユタが後ろから覆い被さってくる。
頬と頬がぴたりと触れ合う。
からだを捻って、キスをする。
鳥が餌をついばむみたいに、された。


「さっきの嘘。ほんとは、今の広いバスタブでユタと寄り添うのが好きだよ」
「そうなの?」
「それに、あんまり狭いと、俺が暴れたらお湯がこぼれちゃうだろ」
「トウヤ、お風呂の中でするの、好きだもんね」
「聴覚が敏感だから、興奮するの」

浴槽で乱れた俺を思い出したのか、ユタが目尻を下げて笑った。いやらしいヤツ。

俺はユタの気分が晴れたのを見計らって、

「ほんとのほんとは、ユタがそばにいれば、他にはなんにもいらないよ」

と云った。絶妙なタイミング。

ユタは思いきり幸せそうに顔を崩して、力いっぱい俺を抱き締めた。

気づいてしまったなあ。
俺だって、ユタの望みを叶えることが生きがいなんだってこと。







結局二人の愛の一周年記念日には、100本の真っ赤な薔薇の花束が、ユタからトウヤへ贈られた。






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