志摩の双子妹で京都編(勝呂)

「柔兄、なんでウチは坊のことお守りせなあかんの?」
「坊は俺たち明陀の大事なお人なんや。坊がおらんくなったら、俺たち家族もバラバラになってまうんやで」

物心がつく頃には、坊のことをお側でお守りしはるんが当たり前やと思おてはった。

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「名前、なに、その髪…なんで俺と同じ色にしてはるん!?……そない、似合うに決まっとるやん!」
「えらい、かいらしくなったやろー?これで坊もうちにメロメロや!盾姉に画像送ったろー」

うちはそう言ってケータイを取り出すと、インカメラにして廉造とのツーショット写真を撮った。

正十字学園に入学して3ヶ月。
今年の夏は東京で過ごす最初の年になる。

うちらは祓魔師となるべく、生まれ育った京都の街を出て東京の高校へと進学した。
祓魔師の称号を得るには、それ専門の塾に行かひんとあきまへんとのことで、坊が進学を決めた時には、自然とうちら3人の進学先も決まった。
坊は「お前はどこでもええやろ」言うてはりましたけど、双子の片割れはどうも頼りなくてあかしまへん。
お父も、うちは祓魔師目指さへんでええ言うてはるけれど、ちぃさい頃からえらい気張ってはる兄さんたちに育てられてしもうたから、必然的になりたいなあ思うてた。
半ば無理やり着いてきたも同しやなあ。

「先におかんに電話しはるわ」と言う廉造を置いて、先に病室へと向かう。

「子猫さーん!名前ちゃんがお見舞いに来はったよー!……って、坊もおるやないのー!」
「名前!ここ病院やぞ……て、その髪の毛…」
「気合いです!うちも次は身を盾にして坊を守らへんと思いまして」

昨日、奥村くんがサタンの落胤であることが発覚した。
その奥村くんを目当てにアマイモンが襲撃し、子猫さんは左腕を骨折しはって入院。
廉造は肋骨にヒビを入れて、坊も大きくはないけど怪我しはった。

「はあ?んなピンク色のチャラチャラした盾いらんわ。それにお前も、ここんとこ傷できたやろ」

そう言って坊は、自分の左顎のあたりを指でチョンチョンとつつく。
アマイモンが坊に掴みかかり投げ捨てた際、咄嗟にスライディングキャッチしたときにちと擦り傷ができてしもた。

「やー、こんなの大したことありませんて!安心してください、坊が18歳なったときには黒く戻しますから!やっぱ寺の子やさかい、仏前式ですやろー?」
「んな予定入れとらへんわ」

やーん、いけずう。
坊はうざったいといった態度で、隣に座ろうとする私をしっしっと追い払う。
彼は今日もつれない態度やけど、うちはむかーし、むかしに坊が言ってくれはった「大きくなったら結婚しよな」の言葉を信じて諦めずにアタックし続けてる。

「まあ、でも…スマン」
「なんで謝ってはるんです?」
「いや…お前らが怪我したのは俺の所為やと…」

坊は居た堪れないといった表情でシュンッと項垂れる。
子猫さんはしゃあないなあて顔して「自重してもらわんと、僕ら身ぃもたんわ」と続ける。
それもそやなあ。

「堪忍!」

坊は反省しているようで、気を落としている。
こういうんは、今回が初めてやない。

これまでも、何かにつけては煽られて激情した坊が喧嘩沙汰になることはしょっちゅうあり、その度に坊や子猫さん、たまにうちも怪我しはることがあった。
情に厚いんわええねんけど、やっぱ気性が荒くなりがちなんはあかんな思う。

「…そんな事よりも、降魔剣の話…ほんまですか?」
「…あぁ、間違いないわ。俺は小っこい頃から和尚にしつこく写真見せられてきたし」
「奥村先生もはっきりおっしゃってはりましたしね」
「それ、気になってたわ。なんで奥村くんが明陀の本尊持ってはるん?」

アマイモン襲撃の際に、奥村くんがずっと背負っていた剣を抜いた。
それが明陀宗の本尊、倶利伽羅であることが発覚してうちらは動揺した。

「こんな美人なお姉さんおるんやったら無茶でもアバラ折って入院したんになぁ。いつか絶対入院しますわ!!」
「志摩…」

話の端を折るように聞こえてきた片割れの声に苦笑いする。
他の2人に目をやると、呆れた表情の中に怒りさえ見えていた。

「坊!子猫さん!名前!大変や!!正十字総合病院、ナースのクオリティハンパない!」

駆け寄ってきた廉造に向けて、坊がどつく。
「なんで!?」言うがそれはこっちのセリフや!
真剣な話しとるときに!

「…やなかった、本当に大変なんや!和尚倒れたて」
「和尚が…?」

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「坊!」
「坊や!」
「坊!!ようお帰りにならはった!子猫丸に廉造くん、名前ちゃんも!」

虎屋旅館の門をくぐると、虎屋従業員一同に歓迎された。
「女将さん呼んで来て!女将さん!」という声に、坊は「やめぇ!!」と制止するが、それも虚しく従業員の一人は駆けていってしまった。

子猫さんが退院すると、うちら候補生は実戦参加として京都遠征に同行させてもらうことになった。
4ヶ月ちょっとぶりの京都は少し懐かしい匂いがした。

幼い頃から通うてたはずの虎屋も、どこか、懐かしさに満ちた風景で少しキュンとする。
こない長く離れたことなかったからかなあ…

奥から息を切らした様子で、女将さんが「竜士!!」と声を上げて駆け寄ってくる。
そして、

坊の髪をひっつかんだ。

「とうとう頭染めよったな…!!将来ニワトリにでもなりたいんかい!!アンタ二度とこの旅館の敷居またがん覚悟で勉強しに行ったんやないんか!?ええ!?」
「…せっ、せやし偶然、候補生の手伝いで駆り出されたゆうてるやろ!大体ニワトリて何や!!これは気合や気合い!!」
「なにが気合いや私が何のために男前に産んでやった思てんの!許さへんで!」

目の前の光景は見慣れたそれであり、うちらは微笑ましい顔で見守る。

「お、女将さん子猫丸です。ご無沙汰してました」
「「どーも、女将さん!お久しぶりですっ」」

うちら気づいて、女将さんが「あら!」と声を上げはる。

「猫ちゃん!廉造、名前も!よう帰ってきたなァ…無事で何よりや…竜士のお守りも大変やったろ!」
「お守りいうな!!!」

懐かしいやりとりにどこか安心感も覚え、不覚にも、うちもお母に会いたくなった。
うちらは久々の故郷やし言われて、身内への挨拶を済ますようにと他の候補生と別行動となった。

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「八百造さん、入るえ」

女将さんに案内されたのは、重度の魔障を負うというお父のいる部屋やった。

「「お父!!」」

うちと廉造は布団に横になるお父に駆け寄る。
起き上がろうとするお父に手を貸すが、本人は苦しそうに咳をする。
……なんや、お父、えらいへばってはるやないか…

「子猫丸、よう坊を守ってくれたな、大したもんや。それにしても……お前らはど頭ピンクにしただけやろが!…名前はなんやそないところにかさぶた作りおって、女やて自覚せぇ!」

なんや元気やないか!
うちらはお父にげんこつを落とされた頭を抑えて訴える。

「いっったーい!これは女の勲章や!坊のことお守りしはったんやで!」
「お…っ、俺かて!やる事はやってましたぁ!」
「この二人も右往左往してはりましたよ!」

まったくフォローになっとらん子猫さんにつっこむ。
和尚も倒れはったって聞いてたけれど、大したことあらへんようで、むしろ、それを聞いた坊のストレスボルテージが急上昇していくのを感じた。

あかん…また逆上しはってる…
先日の今日なその短気っぷりを見て、うちと廉造は顔を見合わせてため息をついた。

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「廉造?そない急いでどないしたん?」

虎屋の門前を掃き掃除してると、廉造と子猫さんが駆け寄ってきた。

「坊が頬腫らしてん、せやから名前、氷用意して来い」
「はぁ!?なんでや!なんで坊怪我しはったん!」

うちは廉造と並走して、慌ただしく台所ののれんをくぐる。

「「女将さん!氷…って、出雲ちゃん!浴衣めっちゃええなあ!?」」

台所へ入ると、浴衣姿の彼女がそこに佇んでおり、髪もアップにしてえらいかいらしい姿やった。
出雲ちゃんはサッと身を引きはって、うちらを怪訝な顔で睨みつける。

「あんたらいつもセリフがかぶって気持ち悪いのよ!」
「えー、ほんまのこと言うたのに、もっと「名前ちゃんありがとう」てニコッてしてくれはってもええねんでー」

「気持ち悪っっ!」と言って彼女に距離を取られる。

「杜山さん、坊怪我しはったんで氷ください」

子猫さんがそうお願いすると同時に、坊ものれんをくぐって入ってきた。

「……出張所から右目が奪われた」

彼の言葉に、その場にいた全員が凍りついた。

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蝮ねえさんが戻らはった聞いて、うちらも急いで出張所へ駆けつけた。
そこには、魔障に侵された蝮ねえさんと、柔兄を取り囲むようにして祓魔師たちが集結していた。

藤堂三郎太は蝮ねえさんを利用し、右目と左目を用いて不浄王を復活させた。
さらに、そこに居合わせた和尚が戦闘中だという。

「不浄王討伐に出発する!!!!瘴気対策を忘れるな!!不浄王は腐の王の眷属や!」

お父の号令とともに、祓魔師は準備に取り掛かるべく慌ただしく散り散りになっていった。
坊は遠慮がちに蝮ねえさんに歩み寄り、声をかける。

「蝮…!?お前、右目が…!」
「りゅ、竜士様!」

こちらを振り返る蝮ねえさんの顔は、右目からは血が流れ、開けないほどにただれている様子が伺えた。
彼女は息絶え絶えに「ごめんなさい」を繰り返し、和尚を助けてと訴えた。
柔兄が蝮ねさんを医務室へ運ぶと言い、抱き上げた。

「俺は後で一番隊と合流します。坊は必ず塾の皆と旅館へ」

柔兄は柔らかい口調で坊を促すと、一変して険しい表情でこちらを見やると嚇すように声を張り上げた。

「廉造ォ!名前!子猫!!しっかり坊をお守りせえよ!!何かあったらバラすぞゴラァ!」
「「あー、はいはい、まかしといてー」」

うるさい兄貴やな、ほんに。
二人の背中を見送って佇む坊に、廉造は「しゃあないですよ、柔兄もああ言うてたし」と諌める。

「坊、うちらは虎屋にもどりましょ」

討伐準備で出張所は慌ただしく、邪魔になってお父にどつかれる前にと坊を促す。
その時、霧隠先生に呼び止められた。

「おっ、いたいたお前ら!ちょっとこっちに来い!」

彼女はコートのようなものを抱えたまま、奥村くんの処遇について話し始めた。

「さっき炎を出した件で、燐の処刑が決まった。ヴァチカンの決定だ、覆ることはまずない」

途端、その場にいる全員が凍りつく。
「そこでだ」と霧隠先生は続けた。

「勝呂くん、コレをキミに預ける!」
「倶利伽羅…!」

霧隠先生は奥村くんが帯刀しはってた剣を差し出すと、坊に手渡した。

「それと、親父さんが燐に託した手紙だ。不浄王を倒すには燐の力が必要だと書いてある。アイツは協力する気だった。お前達、燐を助け出してくれないか?」

和尚から奥村くんへの、手紙?
うちらが、奥村くんを助け出す…?どうゆうこと?

「もう燐が処刑を免れるには手柄を立てるしかない」

そう言って、霧隠先生は私の持つコートを持ってけと言わはった。
なにやらこれは迷彩ポンチョいう特殊なものらしく、見つかることなく、独居房にいる奥村くんに近づけるのと…

霧隠先生を呼ぶ声がして彼女は力なく返事をする。

「この通り、アタシも所詮騎士團の犬だ。表立って動けない。頼むぞ!全てはお前達の判断に任せる。」

それだけ言うと、先生は足早に去ってしまった。

「坊、うちが読みますえ?」
「……おん」

倶利伽羅を見て固まる坊の代わりに、霧隠先生から受け取った手紙を声に出して読む。
なんで奥村くんが倶利伽羅を持ってはったのか、また、なんで奥村くんを救出する必要があらはるのかってことが書かれていた。

うちが手紙を読み終えると、しえみちゃんは勢い良くポンチョを取り上げ、「みんなで燐を助けよう!」と意気込む。

「…いや、助けたいのはやまやまやけど…それって、ヴァチカン敵に回すてことやで」
「で、でもこのまま燐と会えなくなったら…みんなもきっと後悔するよ…!」

しえみちゃんの言葉に一瞬固まる、が、坊がポンチョを取り上げ、勢い良く駆け出した。
それを見た途端、うちと子猫さんも急いで追いかける。

「名前!?子猫さん!?冗談やろ!」
「僕は坊を守らんと…それに、僕もきっと後悔するから」
「廉造の錫杖よりは、うちの方が坊のこと守れるて証明しはるわ!」

うちはそう言って仕込んでいた錫杖を組み立てながら、坊の後を追う。
坊がああなったら止められへんのや。
うちがお守りせないかん。廉造みたく才能は無いけれど、うちも、やればできるんや…!

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『勝呂竜士、これでお前が劫波焔(ごうはえん)の所有者となった』
「真っ赤な、炎…!」

奥村くんを独居房から救い出すと、霧隠先生から着信があり「和尚を捜し出して救助しろ」と司令が届いた。
うちらは金剛深山まで来て和尚を見つけ出したが、和尚は伽樓羅(かるら)との契約を使って結界を張るまで帰らんと言い出した。
しかし、和尚の体力は限界であり、替わりに血の繋がりのある坊が継ぐこととなった。

うちは眩しい炎の光りを纏う伽樓羅を見て、複雑な気持ちを抱いた。
坊がこれまで以上に危ないことしはろうとしている。
…うちは、どんな覚悟で坊のことお守りせなあかんや。

和尚から結界呪を引き継ぐ坊の背中を見て、鼻の奥がツンとした。

和尚は坊に結界呪を引き継ぐとその場に倒れ込み、うちはすぐさま駆け寄る。
和尚の顔は真っ白で、血の気がえらい無くのうてはる。

いかん…和尚死んでまう…

泣きそうな顔を坊に気づかれ、「お前は杜山さんと神木とここに残って和尚を見とれ」と言われた。

「志摩、子猫丸。二人は霧隠先生や明陀の皆に、さっきの話を伝えに行ってくれ」
「坊は?」
「俺は結界を張りにいく。この結界は触地印を中心に広がる、なるべく胞子嚢の近くで展開させな」
「なっ!?」
「あない所に行かはるゆうんですか!?」

坊の言葉に勢い良く振り返る。
子猫さんもえらい剣幕で坊に詰め寄っている。
「一言ゆわせてもらうわ。アンタ、ほんまに死ぬで?」と言う廉造にはいつものふざけた様子は無く、ほんに坊をここに留めたい一心で言うてることが伺えた。

「坊が行かはるなら、うちも行く!」
「はぁ!?あかん!お前は和尚のとこにおれ!」
「名前安心しな、勝呂は俺が守る!」

そう言って奥村くんは坊の前に立ちふさがる。
こいつ…剣抜けんくせに何言うてんのや…

「俺にまかせてくれるか?子猫丸」

子猫さんは首を縦に振ると、勢い良く走り出した。
後を追う廉造を見送ると、うちも決意を固めて坊の方を振り向いた。

「やっぱうちも坊と行く!伽樓羅って火の眷属やろ、曼荼羅唱えて坊の身体の負担減らすことくらいできんで!」
「ダメや!お前はここにおれ!」
「嫌や!絶対に坊と行く!…行かせて、ほんに、行かせてほしい…」

少し涙声になっていたかもしれへん。
坊はぎょっとした表情を一瞬見せると、「遅れたら置いてく」と言って容赦なく本気に走り出した。

「えっうわっ待ってー!ぼおおんんん」

受け入れられたことが嬉しくて、思わず涙腺が切れて涙が溢れた。
「うるさい!泣くな!」と前方から怒鳴られるが、それすら嬉しい…

うちは、絶対、絶対に、坊をお守りするんや…。
志摩家の人間なんに、未だ悪魔も召喚できへん。
廉造と違うてえらい奴も持ってへん。
うちができるんは、錫杖で闘うだけ、それだけでも、そのほんの少しの力だけでも、坊をお守りする盾になりたいんや。

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「あ…あれが、不浄王の心臓か…」
『オン、シュリマリママリマリシュシュリソワカ…シュリマリママリマリシュシュリソワカ…』

坊の結界呪の力の足しに、と火属系統の曼荼羅で補佐する。
胞子嚢の近くまで来ると、お父が召喚した思われる烏枢沙摩(ウチシュマー)の加護で錫杖の先に火が着いた。
うちは曼荼羅を唱えながら、その火で不浄の胞子を牽制して坊を守る。

坊が言わはった方向へ目を向けると、不気味な風貌の悪魔がこちらへ歩み寄っていた。
曼荼羅を唱えながらも、うちは不浄王と坊の間に立ちふさがった。

「!?名前!なにする気や!!」

あかん、こわい!でも、泣くな!
涙で少し視界が霞む。
袖で目を擦って視界をクリアにさせると、うちは不浄王の吹き出す胞子の方向に目を凝らし、錫杖で焼いて消滅させるが、
その瞬間、不浄王に吹き飛ばされた。

「…キャッ!?」
「名前!伽樓羅!!名前を守れ!!」

意識を手放す前に聞いたのは、慕う彼がうちを守ろうとしはった声だった。
坊、ほんにお優しい人やね…
無理に付いてきて、ほんま、堪忍なあ。

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目を覚ますと、病院のベッドの上やった。
半泣きの盾姉と弓に「あほお!心配したんやぞ!」と言いながらどつかれ、明日には退院しはってええ言われて、点滴を足された。

魔障による怪我は無うなってて、打撲と手首捻挫、体力消耗による頭痛だけが診断書に書かれてはった。
続々と御見舞に来る家族たちは騒がしく、特に金兄はうるさくてはよう帰らはったらええのにと思うくらいや。
午後になると、廉造が子猫さんと坊と一緒に来はった。

「なんや名前、思うたより元気そうやね!明日、休んでええ言われとるやさかい、退院できるんやったら京都観光しようや」
「みんなと京都観光?したい!うちも行くで!」
「あほう!病み上がりやぞ、お前」

ノリノリのうちに向かって坊がげんこつを食らわす。

「ひどい!」
「坊の言うとおりです。名前さん、今回ばかしはおとなしゅうしはってたらええと思うわ」

子猫さんがそう言うならば…
「でもご飯ぐらいは一緒してええやろ?」と言うたら、「じゃあ連絡しはりますね」と子猫さんがメモする。
なんやなんや、スケジュールばっちりやないか?
さすがやなあ。

ふと坊に目をやると、彼はうちの左手首に巻かれた包帯をじっと見はる。
いつの間に怪我しはってたんやろ、まったく覚えがない。
色んなところに青あざも出来てはるけれど、覚えがないだけに昨夜の不浄王がウソみたいに思えた。

ちょっと意地悪したろ…

「実はな、ここも青くなってんねん…キズ残ったらどないしょー。お嫁に行けひんかったらどないしよー」

うちは袖をがばっとめくり、肩の辺りにできた青あざを坊に見せた。
「嫁の貰い手探すの難儀やろなー」と言って坊の方をちらりと見やると、彼とバチッと目があった。

「そん時は俺がもろおたるわ」

一拍の沈黙が流れる。

え…今、なんて…?

「坊、もっかい言うてもろてええ?」と尋ねると、自分の発言に冷静になったのか、坊の顔はみるみる赤く染まり、片手で顔を覆うと踵を返して足早に去っていった。

坊の爆弾発言がえらい衝撃すぎて、足が動かへん。
思考が追いつくと、じわじわと身体の温度が上がるんを感じた。

「え、えええ!どないしよ…プロポーズ、されてしもた…、今の、プロポーズやった!?」
「え、どないしよもなにも、そやし…名前さん、ずっと坊のこと好きやったから嬉しいんとちがいますのん?」
「え、えと、そのぉ、ウチは坊とけ、けけけ、結婚とかしたい思うてはったけど、なんや…いざ言われるとおこがましくて、そんな…」

お嫁さんやなんて!
うちは坊のこと大好きやけど、その、お守りするから大切な人やて思ってきたわけやし…
お嫁さんやなんて…

「子猫さん、ちゃいます。名前が坊に抱く好意は、アイドルとかに憧れてんのと同じの。柔兄、金兄の影響モロに受けてここまできてしもうたらあかんねや、頭ん中が坊バカにできとるん」
「そ、そういうことやったんか…!?せやからうち、いま、こない心臓ドキドキしとるんか…!?」
「はぁーーー、えらい難儀やねえ」

自分でさえ意識できていなかった廉造の言う“坊バカ”症状は、子猫さんを呆れさせた。
「さすが志摩家の双子はんは、頭ピンクなだけありますなあ」なんて言うてはるけれど、今は、突っ込んでる暇はあらひん!
問題発言がどないことやと、うちは本人に確認せなあきひんのや!
うちは思いっきし息を吸い込み、どんどん遠ざかる背中に向かって大声で叫んだ。

「ぼーーーーーーんっ!子作りはいつなったら始めますーーー!?」
「なあああぬいいいい!?名前、いつの間に坊とそんな関係なったんや!」
「柔造なんちゅータイミングで現れとるんや!お前の妹どアホか!?あの破廉恥発言どうにかせえや!」

やっぱ坊の結婚しはったら虎屋継がなあかんのかなあ。
退院しはったら和尚と女将に挨拶せなあかんなあ!

うちはさっそくと言わんばかりに、退院準備をとボストンバッグを広げる。
うちはまだまだ、未熟者やけど、もっと強おなって、ずっと、ずーーーっと、坊のお側にいて、お守りするんや。

「坊が老衰で死にはったら、うち、ちゃんと喪主務めるさかい、安心してな!」
「あぁ!?どついたろか!!!!」

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亜美さんからのリクエスト、志摩の双子妹で勝呂落ちの甘ギャグでした。
何故か京都・不浄王編をぶっ通したのでややシリアスも入りましたが…びくびく…

志摩の双子の妹、とっても書きやすかったです!
京都弁が不自然なのは本当にもうしわけないってほど(悔しさ)

そのうちまた同ヒロインであたふた日常書きたいなあ。

亜美さん、リクエストありがとうございました!

※盾姉と弓は志摩家の長女、二女です。

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