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岩村夏希といえば、そこそこ人数のいる正邦高校の中でも比較的有名な女子生徒だ。
その名字でピンと来る人も多いだろうけど、オレの同級生でありバスケ部キャプテンの岩村の妹だったりする。

サボったり寝ていたりと授業態度は悪いけど、テストは毎回トップ3に入るくらい成績優秀。
運動神経だって並の男子よりははるかにいい。
(噂によれば、授業をサボるために4階の窓から飛び降りて無傷だったって話もあるくらいだからねー)
身長は岩村とは正反対で小柄。目がくりっと大きくて黙ってればすっごい可愛いのに(彼女はきっとお母さん似に違いない)、性格はといえば、短気・口が悪い・めんどくさがり・暴力的……その外見とのギャップに、最初は驚かされたモンだわー。

そんな彼女の最大の特徴はといえば、兄である岩村のことを死ぬほど嫌ってるっつー、ちょっとばかり変わったコだったりする。
っていうか、そのとばっちりでオレも邪険にされてたりするんだけどー。
(夏希ちゃん曰く、「兄貴と同じバスケ部員は私の敵」らしい)
(津川なんぞ、クラスまで一緒だから余計に鬱陶しがられてるみたいだ)



つまり、まあ、何が言いたいかって。

「岩村ー」

「なんだ、春日」

放課後。
いつものように部室で着替え、体育館へ出る前に。
オレはさっきのことが気になって、岩村を呼び止めた。

「昼休み、夏希ちゃんと話したよー」

彼女の名前が出るや否や、岩村の眉がぴくりと上がる。

「夏希と?」

バスケ部員と話すなんて珍しい、と、その細い目を少し見開いた。

「うん。岩村さー、夏希ちゃんに嫌われてるけど、岩村自身はどうなのさー?彼女のこと。嫌いなん〜?」

オレの質問に岩村は珍しく少し考え言い澱み、

「…………わからん」

と、ぽつりと漏らした。

「わからん、って……」

「ああ、勘違いするなよ。あいつが何を考えてるのかわからん、ということだ。別にあいつがどうでもいいとか、そういう意味ではない」

あ〜、なるほどねー。夏希ちゃん、岩村と意志疎通できてなさそーだもんなぁ。


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