1 「春日くん、楽しそうだね」 「ん?んー、まあね〜」 昼休みの終わりを告げる午後の予鈴と共に教室に帰れば、隣に座る(岩村の彼女でもある)高梨さんに話し掛けられた。 どうやら今日も何か一悶着あったらしく、教室の向こうの方で岩村が脱力しているのが見える。 (ある意味では津川以上に岩村が手を焼いてるっていうんだから、彼女も相当なクセモノだと思う。って本人に言ったら殴られそうだけど〜) 「えー、もしかして努くんの妹ちゃん……夏希ちゃんだっけ?と、ロマンスがあったりしたの?」 「さー?どうだろうね〜?」 なんて、笑って誤魔化せば、「茶化さないで」と消しゴムが飛んできた。 床に落ちた消しゴムを拾って彼女に返せば、「それで」と、興味津々身を乗り出す。 「ジッサイ、どうなの?」 どうやら諦める気はないらしい。 どうしてこうも女子っていうのはこういう話が好きなんだろうか。 「別に〜?ただちょっと話をして、お昼一緒に食べて、次の試合見に来ない?って誘っただけだよ〜」 すると彼女は少し目を見開いた後、瞬きを繰り返して口を開いた。 「春日くん……大進歩じゃん」 「そう?」 なんて返せば、惚気だと言われてしまった。 別にそんな気はなかったけれど、言われてみれば、なるほど確かに惚気に聞こえなくもないかもしれない。 「だって夏希ちゃん、バスケ部ってだけで嫌ってるじゃん。坂本くんはともかく、あの、ちょーイイヒト属性の大室くんとかも例外じゃないしさー」 言われてふと、先日昼練後にたまたま夏希ちゃんに遭遇したことを思い出す。 とりあえず挨拶代わりに舌打ちが飛んできたのは記憶に新しい。 「改めてさ……春日くん、何で夏希ちゃんのこと好きなの?あたしが春日くんなら、もうメゲてるよ」 心底わからない、という彼女の問いと同時に、始業のチャイムが響いた。 図ったかのように先生が入ってきたため、残念そうだけど高梨さんはそこで一旦話を切り上げる。 つまらなさそうに教科書を広げる彼女に思わず苦笑が漏れる。 ――実際のところ、何で夏希ちゃんのことが好きかって、多分、理由なんてないんだと思う。 強いて言うなら、鮮烈。 この一言に尽きると思う。 そういえば彼女は第一印象から強烈だったな……と、授業そっちのけで4月のあの日を思い出した。 |