1 それは、魔法学院に行った日の三日後のことでした。 「ヴィオレット、ちょっといいか?」 「はい、なんでしょう?」 朝ごはんを食べ終わったわたしに、マスターが話し掛けてきました。 「お前にちょっと頼みたい仕事があるんだよ」 「お仕事、ですか」 「ああ、レーシィ山まで明日の団体さんに食わせる料理に使う美味キノコを採って来て欲しいんだ。アルターのやつはまだ来てないし、俺が店を空けるわけにもいかんし……報酬は二百ゴールド、初仕事にしちゃいい金額だろ?レーシィ山はすぐ近くだから日帰りで帰って来れるし、魔物もいないからお前さんでも大丈夫だろう」 コロナに来て初めてのお仕事に、そのまま首を縦に振ろうとしました……が、ふと数日前のアルターとの会話を思い出しました。 そういえば、今日はアルターと剣の練習をしようと約束していた日です。 「……ヴィオレット?都合でも悪いのか?」 しかしわたしはマスターにお世話になっている身なのです。 それに、マスターもお忙しそうですし…… 「わかりました、マスター。あの、アルターに一緒に練習できなくてごめんなさい、と伝言をお願いしてもいいですか?」 「なんだ、今日アルターと約束してたのか。そりゃ悪いことしたな……わかった、あいつが来たら言っとくよ。じゃあ、すまんがあまり時間もないからすぐに出発してくれ。レーシィ山までの地図はこれだよ」 「はい、わかりました!では、行ってきます!」 マスターから地図を受け取って、わたしは張り切って酒場を出発しました。 アルターには少し悪いことをしてしまいました……。 お使いから帰ったら、アルターに謝りに行くことにしましょう。 なにやらコロナに来て謝ってばかりな気もしますが、仕方ありません。 「アルター、怒るでしょうか……」 悩んでいても仕方ないのはわかっていますが、それでもやはり落ち込んでしまいます。 しかし、そうこう考えているうちに、レーシィ山へと到着しました。 初めての依頼です、失敗するわけにはいきません! 気合いを入れ直して山道に差し掛かると、いきなり目の前に分かれ道が現れました。 どうやら右が初心者用、左が上級者用のようです。 もちろんわたしとしては、右の道に進みたい……の、ですが。 |