12.24 【楽垂】 「しーずりちゃん」 ざわめく喧騒、煌めくイルミネーション。 まるで異世界のような空間。クリスマスというだけで、こんなにも街は様相を変えるものか。 そんな中で彼と2人、並んで歩く私。 「……何よ」 「怒ってる?」 「……別に、怒ってなんかないわよ」 「はい、嘘ー。垂ちゃん、嘘吐くとき絶対オレの方見ないよね〜」 だから、何で怒ってるか教えて?そう、まっすぐ覗き込む瞳が、私は少し、苦手だ。 「……が、」 「え?」 「人混みが少し、嫌なだけよ」 ――だって、こんな顔してるのなんて、他の人に見られたくないじゃない。 「そっか」 私の意図を察した私の手を握る彼の手が、少し強くなる。 「じゃあ、少し見えにくくなっちゃうけど、向こうからイルミネーション見ようよ」 そして、いつだって私の欲しい答えをくれるのだ。 「……そうね」 繋いだ手から伝わる温もりが、少し、愛おしく感じた。 【奥手】 「なぎよぉ」 「なぁに、クリスさん?」 「その……なんだ。あー……明日だけどよ、」 「?」 「どっか行きたいとことかねぇのかよ?」 「行きたいところ?」 「ほら、明日はその、クリスマスだろが……コガネのイルミネーションでも、自然公園のライトアップでも、」 電話越しに聞こえる声は一生懸命で、つい、私も顔が赤くなる。 そうだわ……明日は、クリスマス。 初めて手を繋いだあの日のことを思い出す。 「そうね……じゃあ、」 「どこ行きたいんだ?」 「あのね、アサギの灯台もクリスマス仕様でライトアップしてるんですって」 私の返答を聞いた貴方の笑い声が、受話器の向こうから聞こえたの。 【Wデート】 「ユキコ。はぐれないよう、しっかり捕まっておいで」 「あ……はい、すみません、ヴィルトさん」 「ハーシェ様!見てくださいまし!可愛らしい人形ですわ!」 「わわ……!シルビィさん、そんなに慌てなくても人形は逃げませんよ」 「逃げますわ」 「「は……?」」 苦笑するハーシェ様の言葉にそう答えたら、ハーシェ様だけどなくユキコ様からも疑問符付きで返ってきた。 お兄様だけが、そういうことかと頷いている。 「つまりね、この広場のツリーに飾ってあるオーナメントをペアで持っているカップルには幸せが訪れるというジンクスがあるんだよ」 「ですわ」 なるほど、そういうことかとお二方は納得する。 「そういうわけでユキコ、どれがいいんだい?」 「ええと、では、これを……」 そう言ってユキコ様が指したのは、つがいの鳥のオーナメント。 お兄様がツリーから外してユキコ様に手渡すと、ユキコ様はほぅ、とため息をついた。 「あの……ありがとう、ございます」 そんなお兄様達の様子に見とれていると、そっと肩に温もりが触れた。 「シルビィさんはどれがいいんですか?」 「そうですわね……では、このお人形がよろしゅうございます」 愛嬌のある顔をしたジンジャーマンの形をしたオーナメントを指せば、ハーシェ様は苦笑してそれをツリーから外してくれた。 「シルビィさんらしいですね」 「まあ、どういう意味ですの?」 「シルビィ」 お兄様に呼ばれて振り向けば、ひっそり私の耳元に顔を寄せた。 「少し2人にさせてもらうよ」 「え……え?」 「心得ましたわ。では私どもも参りましょう、ハーシェ様」 その意味するところを察した私は、ハーシェ様の腕を取った。 【主従】 「碧翠様、どうかされましたか?」 テーブルに置かれた小さなツリーを弄ぶあたしを見たフィズが首を傾げた。 「クリスマス、ねぇ……」 そんなもの、永遠に関係ないものだと思っていたのに。 一人でいたときには決して灯ることのなかった、温かくきらびやかな光が部屋を満たしている。 「貴女は放っておいたら、季節も何もかも忘れていらっしゃいますからね」 「ふん……仕方ないだろう。先代も、その前も。碧翠とは、そういうものなのだから」 幼き日であれ、先代はそういったものを生活には一切取り入れなかったのだから。 「存じておりますよ。だからこそ、私は今、こうやって貴女と特別な日を迎えることができるのが嬉しいのですよ……雪」 「ふん……子供扱いするんじゃないよ」 そう言ったところで、これを嬉しいと思う気持ちは隠せない。 苦笑するフィズの指に、そっと自らのそれを絡めた。 【???】 「クリスマスだなんて、どこだかの聖人の誕生を祝う日だったのに、いつの間にこんなになっちまったんだか」 とはいえ、あたしの店もこのシーズンはしっかり売り上げが上がっているので、その恩恵は受けているわけだけど。 「柄じゃないのにねぇ」 あの子がいつ来るかも知れないのに、似合うだろうと思って作ったネックレス。 それとも幼いあの娘には、まだ早いだろうか。 「そのネックレス、素敵ですね。彼女に贈りたいんですけど、おいくらですか?」 いつの間にか来ていた男性客が、あたしの手元を覗き込んでそう言った。 「……悪いね、これは非売品だよ」 そう言ってあたしは、青い薔薇のペンダントをカウンターにしまった。 【???】 ――いつか、必ず迎えに行くから。 ――約束よ。ずっと……ずっと、待ってるから。 幼き日の飯事のような約束事。 そんな子供騙しみたいなものでも、ただ、それだけがわたしの生きる意味だった。 貴方の記憶が奪われても、わたしは貴方のことを覚えている。 もう二度と会うことは叶わないと思って、絶望すらしていたわたしの前に、貴方は再び現れた。 「ねぇ……神様がもし、本当にいるなら……幸せだったあの日をもう一度……」 誰にも届かない願いはそっと、風に溶けた。 back |