09.12 「やれやれ、一段落だね」 取り込んだ薬草の束を積み上げて、ようやく一息ついた。 太陽の光をたっぷり浴びた薬草は、収穫したときに比べれば嵩は減ったが、それでもまだそれなりの量になる。 これを種類毎に選別し、それぞれ煎じて調合するのが、この時期一番重要な仕事となる。 「この調子でいけば、次にあの双子が来るときまでには間に合うだろうよ」 あの姉のオニゴーリは薬を飲まなければ床から出るのもままならない。 先日渡した薬は、一月程はもつだろう。 「フィズ、お茶にしよう。この前のお茶請けを出しておくれ」 一日の労働を終えてソファに腰掛ける。 しかし、いつもならすぐに返ってくるはずの返事はいつまで経っても返ってこない。 「……ああ、そうだ。今日明日は里帰りだったな」 すっかり共にいるのが当たり前になってしまって、そんなことすら忘れてしまうとは。 あやつと共有した時間は、あまりに大切すぎて。 一人の時間の方がそれより永いというのに、今ではあやつのおらぬ生活など、考えられなくなってしまっている。 「まったく……私としたことがねぇ」 自嘲気味に吐いたため息は、己以外に聞かれることなく溶けていく。 誰かを待ち遠しいと思ったことなど、今まで一度もなかったというのに。 朝見送ったはずが、一日と経っていないのに恋しい。 「フィズ……」 「お呼びですか、碧翠様」 返ってくるはずのない名前を虚空に呼んだ、はずなのに。 なのに、どうして。 「お前、どうして……」 「貴女は何かに熱中すると、ご自分のことが疎かになりますからね。心配で、戻ってきてしまいました」 そう言ったフィズは、日だまりのように柔らかく笑う。 「積もる話もあったろうに」 「構いませんよ、日帰りで行けることがわかったのですから。また、いつでも行けばいいんです。……さあ、お茶にしましょうか。今日も一日、お疲れ様です」 「ああ、そうだな。ダージリンを頼む」 「はい、かしこまりました。……あ、そういえばひとつ、言い忘れていたことがありました」 キッチンへ向かおうとしたフィズがぴたりと立ち止まり、振り向いた。 「言い忘れた?」 「はい。……ただいま、雪」 ここが私の……そして、フィズの、帰る場所。 「ふ……おかえり、フィズ」 今までフィズにこの言葉で迎えられていたが……たまには私がフィズを迎えるのも、悪くない。 back |