08.26 それは本当に偶然だった。 「あれ……?」 いつものように朝の散歩をしていたら、見覚えのある目つきの悪い黒髪。 あれは、多分。 「笑涙!」 呼ばれた彼はゆっくりこっちに気付いて振り返り、そして驚きに目を見開く。 「お前……もしかして翡翠か?!」 やっぱり笑涙だ! 前に会ったときとちっとも変わってない。 懐かしさに思わず顔が綻ぶ。 「おー。久しぶりだよなー!前に会ったのってコガネじゃなかったっけ?」 懐かしい友人の元に駆け寄れば、ふと感じた小さな違和感。 何なんだろう。なんか、こう……あ! 「なあ、笑涙。もしかしてさ、」 「何だよ」 「背、縮んだ?」 「っ!……炙んぞテメェ」 地の底から聞こえてくるみたいな笑涙の声に、若干の身の危険を感じた。 (炎はマジで勘弁) 「いや、だってさ!!ほんとにそう思っただけなんだって!いや、そうじゃなくて!!悪気とかはなくて!」 俺の必死の訴えが通じたのか、とりあえず笑涙はため息ひとつついて、頭をばりばり掻いた。 「オレが縮んだんじゃなくて、お前がデカくなっただけだろーが」 「え?あ、そっか!そういや前に会ったときって、オレ、チコリータだっけ?」 よくよく考えてみれば、それなら笑涙が縮んで見えたのも至極当然ってことで。 「馬鹿みてーにデカくなりやがって」 そう言って笑涙は俺の膝の裏を蹴飛ばした。 「いって!ひっでーなー」 とは言ったものの、全然痛くはないわけで。 なんつーか、所謂、お約束。 「笑涙は今はまだ旅を続けてるの?」 「ああ、まあな」 「ふーん。じゃあ、もっとデカくなるな。笑涙も」 なんて、しみじみ言ったら今度は拳が飛んできた。 「当たり前だっつの」 そう言って、どちらからともなく笑って、お互いのことを話した。 今までの冒険のこと。 カナエちゃんのこと。 コハルちゃんのこと。 それは俺たちにとって何より大切なことで、何にも代えられない宝物なんだ。 「んじゃ、そろそろ行くか」 すっかりお日様が高く上った頃、笑涙は立ち上がって伸びをした。 「そっか。俺、当分はエンジュにいると思うからさ。また遊びに来いよな!」 「おー。次会うときには絶対成長してるからな」 「楽しみにしてるな」 こつりと重ねた拳。 くるりと笑涙は背を向けて、そして、コハルちゃんの待つであろうポケモンセンターに戻って行った。 「俺も戻るかなー。腹減ったし!」 帰ったらカナエちゃんに話をしよう。 きっと驚くかな。 カナエちゃんの反応を想像して、ふと、楽しい気分になった。 そんな、ある日の朝。 back |