授業も委員会も終わった後に先生に頼まれたお使いの帰り道、夕焼け空を見ながら歩いていた。
お腹が空いてきたことに気付いてしまうと、自然に足は早くなる。。
遠くで寺の鐘が鳴って、世界は黄色に強く一瞬だけ輝いては徐々に赤くなっていく。
一人で歩く道は少し淋しくて、だけどふとタカ丸さんの顔を思い出して顔が熱くなる。
昨日はタカ丸さんと少しだけど話すことができた。一昨日は一緒の時間にご飯を食べられたし、三日前は髪の毛を切ってもらえた(二週間も順番待ちをした)。
たったそれだけの日常が幸せだと思う。
この感情を恋と呼ぶにはあんまり幼いから誰にも内緒にしている。
今日はお使いの前にたまたま居合わせたタカ丸さんに行ってらっしゃいと声をかけてもらえた。
それだけだけど、それ以上は望まない。
夕飯を食べるとき、タカ丸さんの姿が少しでも見れるだろうか。見れるといいなと思うので、早まった足はいつのまにか駆け足になっている。
前方から人が歩いてくるのが見えた。逆行で顔は見えない。
私は端に寄りすれ違おうとすると、前方から来る人も私と同じ方向に端に寄る。
訝しんで睨み付けるように逆行の中、顔を伺おうとすると、私の心臓は思わず大きく跳ねた。
「タカ丸さん!?」
「やっと気付いてくれたねえ」
暮れていく空を背景にタカ丸さんがにこにこと笑っている。
「どうしたんですか、こんなところで」
タカ丸さんに会えて嬉しい反面、どうしたのだろうかと少し心配にもなって眉間に少しだけ皺が寄る。
「名前ちゃんが遅いからって、先生が迎えにいってやれって言われたんだよ」
「わ、そうだったんですね、ごめんなさいわざわざ」
「ああ、違うんだ。俺が迎えに行きたかったから先生に言ったんだ。だから謝らないで」
その言葉の真意を聞き返すタイミングを計れないまま、タカ丸さんをじいっと見つめる。タカ丸さんはくるりと踵を返して、ふにゃりと柔和な笑顔を浮かべた。
「さ、帰ろうか」
タカ丸さんの目尻が夕焼けで赤く染まるのに見とれる。私は夕焼け色に染まっているであろう頬を上げて笑って頷いた。
「はい!」
ぐうぐうとお腹が空いて自己主張を激しくしている。
早く帰って食堂に行こう。もしかしたら一緒にご飯が食べられるかもしれない。
そんなことを思いながら、夕焼けから夜に変わっていく空を見上げた。学園に帰る足取りは軽い。幸せを確かに噛み締めながら、今日のご飯はなんだろうかと考えた。
夕焼けとごはん
(タカ丸さんを見てたら焼き芋が食べたくなりました)
(俺は甘いものが食べたくなってきたな)
end
食欲と恋愛は似ている気がする。
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