焙烙火矢をぽーんと上に投げる。それを自分で捕り、また上に投げる。これに火が着いていたら、と想像して、手に戻ってきた焙烙火矢を見詰めて、今までで一番高く遠く投げる。
火が着いていたら、私の手元に落ちる頃に爆発するだろう。そうなれば私は死ぬ。
すとんと手の中におさまる焙烙火矢は、仙蔵にもらったものだ。任務に着く前に、お守りがわりにと渡してくれたものだ。絶体絶命の時に使えと言っていた。
卒業を間近に控えた大切な時期の任務で、卒業試験にもなっている任務だった。
失敗して生きて帰って来るのは難しいと言われているものだ。
仙蔵のお守りのおかげか、これを使う機会もなく無事に任務を終えることができた。
大きな傷も失敗も無かった。もしもの事があれば、この焙烙火矢で自害しようと決めていたからだ。そう考えていたからか、驚くほど冷静に体が動いた。
死とはやはり怖いものなのだ。

仙蔵にお礼を言うべく長屋の辺りまできたはいいが、どうにもそこから足が動かない。いきすぎた死の恐怖からまだ脱しきれていないらしい。
焙烙火矢を返そうと思っていたが、手に馴染んでしまったそれは返しがたく、たたらを踏んでいるばかりだ。
おとなしくくのたま長屋に戻って寝ようと決める。
焙烙火矢を弄びながらもと来た道を行こうと踵を返すと、笑いを堪えた仙蔵が立っていた。

「な、」
「なによ、ってか」

仙蔵は口許を緩めたまま私に一歩近づいた。私はばつが悪く、ぶっきらぼうに言葉をかけた。

「いつからいたの?」
「お前が焙烙火矢を二回目に投げてからだな」
「結構最初からじゃない、なんで私だってわかったの」
「私の焙烙火矢が見えたからな。すぐに気付いたさ。私に会いに来たんだろう」

自信たっぷりなこの男に勝てる言葉を私はもっていない。

「気配くらいだして近付いてくれる?」
「いつ気付くかと思ってな」
「悪趣味」
「ふん」

勝ち誇った仙蔵の顔はどこか柔らかい。私はここで本題を切り出す。

「あのさ、焙烙火矢ありがとう。おかげで任務は成功」
「そうか。よかったじゃないか」
「うん。それでね、この焙烙火矢なんだけど、私もらってもいいかな?」

手の中の焙烙火矢を仙蔵に見せながら訪ねる。仙蔵は一瞬不思議そうな顔をして頷いた。

「それは構わないが、こっちと交換してはくれないか」

仙蔵は懐から別の焙烙火矢を出した。

「なんで?」
「お前に渡したのは焙烙火矢ではなく花火なんだ」
「は?」

仙蔵は喉でくつくつと笑いながら私の手の中の焙烙火矢を捕った。代わりに今懐から出てきた焙烙火矢が乗せられる。

「もしもこれが使われた時は、お前のもとに行こうと思っていたんだ」

いたずらっぽく笑った仙蔵はとても綺麗で、私はなんの言葉もでなくなる。
仙蔵は花火だといった焙烙火矢に火をつけて、思い切り高く遠くに投げた。ぱーんと軽い音がして火花が丸く散っていく。
本当に花火だったんだ。

空に一輪だけ咲いた花火から視線を仙蔵に戻せば、小さくすまんな、と謝られた。

「なんでこんなこと?」

仙蔵の綺麗な笑顔はちっとも崩れておらず、私は仙蔵はがどうしてそんなことをしたのか計れずに聞く。

「お前がもしいなくなったらと思うと怖かったんだ」

完璧を誇る仙蔵の笑顔は自嘲的なものに変わっており、それでも綺麗な仙蔵に思わず見惚れた。
私がいなくなるのが怖いと言った、その真意を聞くのは怖い気がした。仙蔵がいなくなることが、私も怖くなる気がして。

「変な仙蔵」

私はそう返すのが精一杯で、仙蔵の笑顔はいつもの自信に満ち溢れた綺麗なものに戻っていた。
全てを一瞬に懸ける花火に似たこの思いが、花開かないことを祈りながら、仙蔵に触れた。



fire flower



end

もうすぐ卒業してしまうのに、こんな思いは辛いだけだ。

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