「ねえ皆、今度の休みにお団子でも食べにいこーよ」

唐突に切り出したのはタカ丸さんだった。4年生が集まるのは授業中かご飯を食べている時ぐらいしかない。私は嬉々とするタカ丸さんを見た。

「どうしたんですか、急に」
三木が不可解な物を見るように訝しげに聞き返す。私の隣に座る綾部は表情一つ変えずにご飯を食べ続けている。

「ほら、皆で何処かに遊びに行くってないじゃない。だから、どうかなーって」
「調度その日なら予定はないですけど」

滝がお茶を濁すように言ってから三木を見る。

「僕達5人で行くの?」

我関せずだった綾部が口を開く。5人?5人ってあれ、ねえ、それ私も含まれてるんですか?

「うん、5人で行きたいね」
「待って、待ってください、5人って私も含まれてるんですか?」
「え?当たり前じゃない」
「私は行かないですよ!」

えー、どうしてー、と愚図るバナナと視線を合わせないようにしながら面子を見る。ナルシーと穴堀小僧と火器オタクとチャラ男とお団子を食べに行きたいなんて誰が思うだろう。

「名前が行かないなら僕は行きません」

綾部がそう言ってご飯を口に放り込んだ。

「私も名前が行かないならユリコと散歩でもします」
「えー、滝君は行くよね?」
「皆が行かないなら行きません」
「えー、名前ちゃん、行こうよー」
「えー、」
「何か用事があるの?」
「ありませんけど」
「ならいいじゃない」
「えー、嫌、やっぱり用事あったかな」
「名前ちゃん、お願いー」
「どうしてそんなにこだわるんですか」
「だって皆ともっと仲良くなりたいじゃない」

そんな事を言われたら私だって鬼じゃないんだし嬉しいしで、縦に首を振ってしまっていた。



暑い暑い空気が体を包む。小松田さんに渡された出門表に名前を書いて5人で門をくぐる。結局お団子を食べてから町まで行こうという話になった。私服でも何故か目立つこの4人はオーラでもでているのだろうか。特に滝。手入れされた髪の毛が太陽のもときらきらと輝いている。

「行きましょうか」

三木がタカ丸さんに促す。そうだねー、と本当に楽しそうにうなずき返したタカ丸さんは歩き出す。

「こっちの峠のお団子が美味しいって兵助君に聞いたんだー」

火薬委員会の久々知先輩も豆腐以外を食べるんだと変な事を考えながら歩く。滝はタカ丸さんにぐだぐだと自慢話をしている。三木は傍らにユリコがいなくて少し寂しそうだ。綾部を真ん中にして私たちは3人で適当に話す。委員会の事、授業の事、火器と蛸壺の事、それらを話ながら歩き続ける。なんだかんだ5人でいる空気は楽しくて、私は嫌いになんかなれないのだ。今日がいい天気でよかった。
ついたお団子やさんで私は草団子を頼む。タカ丸さんは三色団子、綾部はおはぎを頼んでいた。滝と三木はぎゃあぎゃあとわめきながら同じあん団子を注文した。

「そんなにこの私と同じ団子が食いたかったのか三木エ門」
「そんなわけないだろうが!」
「ふふん、まあ私と同じものを頼むお前のセンスはいいな」
「逆に嫌になるわ」

ぎゃあぎゃあと綾部を挟んで言い合うものだから綾部は五月蝿いと2人の間を離れわざわざ私とタカ丸さんの間にぎゅうぎゅうと座り込む。

「なんでわざわざ入り込むのよ」
「なんとなく?」
「疑問形で返さないでよ」
「あははは」

苦笑いをこぼすタカ丸さんに綾部は気にせず遠くを見る。

「なんだか眠い」

目をしばしばさせながら綾部がぽつりと呟いた。

「今日はお昼寝に最適の日だよねえ」
「本当ですね」
「綾部君の肩かしてー」
「じゃあ名前の肩かして」
「え?嫌だよ」
「まあまあ」
「綾部君の髪の毛ふわふわしてるねー」
「お願いだから私の意見を無視しないで頭を肩に乗せないでくれる?」

まだ言い合ってる滝と三木の声と綾部の頭の重さがなんだか心地よくて、私は一瞬目を閉じる。

「お待たせしました。草団子のお客様」
「あ、はい!」

肩の重みをべりと剥がして、店の人から草団子を受け取る。

おあと三色団子とおはぎとあん団子2つですねー。と店主が言った。滝と三木も黙って団子を受け取る。

「いただきまーす」

5人で揃って言えば、私は自然と笑顔になっていく頬をそのままに草団子に口をつけた。ほのかに甘くて草の香りが鼻腔に広がる。

「おいしい!」
「でしょー?兵助君にお礼言わなきゃ」
「本当ですね!タカ丸さんのも美味しいですか?」
「うん。食べるー?」

差し出されたお団子を一つ頬張る。美味しい?と首を横にかしげるタカ丸さんの笑顔に反則なだなあと思いつつ、団子の美味しさについ頬も緩む。

「うん、すごい美味しいですね!」
「だね」
「名前、僕のもあげるよ。はい、あーん」

おはぎを一口分に切ったものを口の前に出される。

「自分で食べれるよ」
「まあまあ」

ぐい、と唇をこじ開ける勢いの綾部に負けて口を開く。それを見た綾部は満足気に聞いてくる。

「美味しい?」
「美味しい!」
「よかったよかった」

そう言って笑う綾部は楽しそうに目を細めた。私たちのやりとりを見て三木と滝も団子を差し出してくれる。そのタイミングが同じで私は笑えてきてしまった。

「ありがとう」

差し出された同じあん団子を、さて、どうしようかと思案する。

「食べないのか?」

三木に聞かれて苦笑いする。

「どっちもあん団子だよ」
「滝のより私の方が美味しいぞ」
「なんだと、この私のあん団子の方が美味しいに決まってるだろ」
「いや、一緒でしょ」
「どっちも食べて決めればいいんじゃない?」

綾部の提案で私は2人からあん団子をもらう。

「どっちの方が美味しかった?」

タカ丸さんに聞かれて私は即答する。

「どっちも同じ味で同じ美味しさだよ」
「そうだと思ったよ」
「喜八郎、お前が言ったんだろうが!」

滝のツッコミを受け入れずそのまま流す綾部に私の草団子を差し出す。

「なに?」
「綾部のくれたから、私のもどうぞ。美味しいよ」
「いいの?」
「もちろん」

綾部は目をぱちぱちさせながら笑ったように見えた。タカ丸さんにもあげるとありがとうととびきりの笑顔をくれた。まださっきの事でぎゃあぎゃあと喚く2人にも草団子を差し出すと、うるさかった喧騒はやみありがとうと美味しいという一言をもらった。


団子やさんを後にして歩く。なんだかこの面子で歩いていると目立つ。とにかく目立つ。目立って仕方ない。だけど滝の自分自慢も綾部の天然不思議ちゃんもタカ丸さんのチャラさも三木の火器オタ話もなんとも思わなくなる程にこの4人の空気が好きなんだなあと改めて思う。今日来てよかったと思いながら、一軒の小物やさんに入る。可愛いかんざしやくし、髪紐、帯留めなどが売っていた。

「このかんざしなんか名前ちゃんに似合うんじゃない?」

タカ丸さんが似合うと言ってくれたかんざしを見る。派手すぎず簡素すぎない、幼くもなく大人っぽすぎない見目にとても可愛いと思う。

「凄い可愛いですね」
「でしょー?」

そう言ってかんざしをつけてくれるタカ丸さんが見せてくれた鏡に写る私はなんだかいつもよりも楽しそうだ。しゃらりと涼やかに鳴るかんざしに胸があったかくなる。

「名前、こっちに向いてくれ」

滝の声に振り向く。滝の小指が私の唇に近付く。

「なに?」
「いいから動くな」

もう片方の手で顎を支えられる。それから滝の小指は私の唇をなぞるように触れて、満足そうに頷く。

「さすが、この私が見立てただけあるな。とても名前に似合ってる。まあこの私の次に美しいといってやらないこともないな。しかし私はこのように化粧を施さずとも十分に美しい、」

ぐだぐだとまだ続ける滝と私の前にタカ丸さんが鏡を差し出してくれた。私の唇には紅がさしてある。私の肌に馴染んだそれを見て、滝の言う美的感覚に成る程と納得する。

「私に馴染んでるね、こんな色初めて」
「名前は強い色よりも若干淡い方が似合うんだ」

滝の言葉によく見てくれているんだなあと感心した。

「ねえ名前、これは?」

今度は後ろから綾部に呼ばれて振り替える。綾部の手には白の花に薄紅の垂れ桜と茶色の縁飾りの大きな帯飾りがある。

「名前は白と薄紅と茶色が似合うから、これは凄い似合うと思う。ほらね」

私の帯留めにその帯飾りを器用につけてくれる。

「ありがとう、なんな皆がこうしてくれると照れるね」
「名前、これも似合うと思うぞ」

今度は三木が少しぶっきらぼうに私の前に差し出された巾着を反射的にとってしまう。

「あ、これ私が前にほしかったやつだ!」
「ああ、見た瞬間名前っぽいなあって思った」
「本当に?嬉しい」
「じゃあおばちゃん、これ全部このままもらってくよ」
「綾部、何言ってるの?!」
「名前にプレゼントだよ」
「毎度ありがとねー」

おばちゃんの明るい声でそれぞれ私に似合うと言ってくれた物を購入しているのが聞こえる。なんだか訳がわからないというか、茅の外の気分だ。だって、皆が、え?

「さあ行くぞ」

滝に後ろから促されて店をあとにする。

「え、これ、なんで私に?!」
「んー、元気になってほしかったからかなあ」

タカ丸さんの言葉だけでは理解ができない。私が元気なかったって事?

「最近の名前忙しそうだったからな。疲れて見えたし、あんまり笑わないように見えたから、今日はそのために5人で遊びに来たかったんだ」
「え?三木の言ってることって最初にタカ丸さんが誘ったのと言ってること違うじゃない」
「だって普通に言ったんじゃ絶対こなかったろ?」
「うん」
「だから皆で一芝居うったわけ」
「うそ、本当に?」
「本当に」

三木の声がくすぐったく聞こえる。確かに最近の私は忙しくて、まともな休養も娯楽もとっていなかった気がする。ふっと疲れたなあと思うことも増えていた。だけどまさかそれをこの4人が気付いてこんな事をしてくれているだなんて思いもしなかった。

「ありがとう!皆!」
「どうだ、今日1日楽しかったか?」
「うん!凄い楽しかったよ」
「この私が考えた案だからな」
「え、滝が考案者なの?」
「感謝しろよ名前」
「うん」
「名前、嬉しい?」
「うん。嬉しいよ」

綾部が唐突に嬉しいか聞いてくるから私が嬉しいというと、4人とも顔を見合わせてにやにやしながら言った。

「だーいせーいこー」

そんな4人を見ておかしくて、私は久し振りに爆笑した。アイドル学年の個性は強すぎてまとまらないけど、実はそんなことないのかもしれないと密かに思った。



忙しなく過ぎる日々の中で
(皆をとても愛しいと思う)


end


長い、とにかく長くてすみませんでした。これは8月誕生日の七香ちゃんに捧げまする。忙しそうだから少しでも癒されたら嬉しいなあ。あんまり無理しないようにね!かなり遅くなってお祝いもどうかと思うけど本当におめでとう!大好きよ!
そして言い訳するなら三木のキャラがよくわかんなかったことと滝がナルシーすぎてごめんね!


(いつも大変お世話になっております。ありがとう、大好きです。追伸、体調には気を付けてくださいね)



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