雲一つない快晴の下、名前と善法寺は歩いていた。目的地は最近できたばかりの甘味処である。
休日に二人でこうして町を歩く事すら久しぶりで名前は喜んでいた。勿論善法寺も喜んではいるが、手放しで喜べない状況だった。
「もういいと思うかい」
善法寺は眉毛をへの字に下げながら聞いた。
「そりゃあだめでしょ」
「やっぱり?」
名前にきっぱりと言われた善法寺は観念するようにため息をついた。
善法寺は今名前と甘味処デートをしている最中ではあったが、この間の変装の実技テストで赤点をとったため、補習中でもあった。その内容は今日一日変装して、誰にもばれなければ合格というものだ。
なので今日の善法寺はいつもと違う顔に、ピンクの着物ではなく薄い緑の着物だ。髪の毛は立花のような綺麗な髪を一つに束ねている。
「なんだか変な感じね」
名前が楽しそうに笑って言えば、善法寺は情けなく笑った。
「まあ、休日返上で補習じゃなかったからまだましだけどね」
「もしそうなったら怒ってたよ」
「うん。僕も自分を恨むよ」
そんな他愛もない話をしながら甘味処を目指す。
「ねえ、手繋いでもいい?」
「勿論。僕の顔じゃないけど」
「関係ないよ。いさっくんはいさっくんだもの」
そっと手を取り合って二人は微笑みあった。目的地はもうすぐそこだ。
七松は今日クナイを新調しに町に出ていた。誰かを誘おうかと思っていたが、みなそれぞれに予定があるらしく一人だ。
新調したクナイを片手に学園まで急いでいた。早く試してみたくてうずうずしている。
駆け足で学園を目指していると、見知った顔を見付けた。名前だ。それならば隣にいるのは善法寺であるはずだが、嬉しそうに手を繋いでいる男の顔に見覚えはない。
今日はいさっくんと甘味処にいくと言って私の誘いを断ったのに?
七松は不思議に思いながら、名前から顔を隠すように二人とすれ違った。
学園までまだまだ距離がある。
空が暮れる前に学園に戻った善法寺と名前。善法寺は先生の部屋へ、名前は何やら騒がしい立花と潮江の部屋に直接向かった。
「なに騒いでるのー?」
障子を開け放したまま、七松が仁王立ちをして話していた。立花と潮江と中在家と食満もいる。
「あ、名前!お前浮気したのか!」
七松は名前の声を聞いた途端振り返ると肩を掴み、凄い剣幕で聞いた。
「浮気?なんのこと?」
名前が訪ねると七松は見たんだ!と声を張り上げた。
「私は見たんだ!伊作と甘味処に行くと言っていたのに、他の男と一緒にいただろう!」
「いつの話?」
「今日だぞ!お昼頃だ」
立花は面白いものを見るような顔をしている。中在家の表情はいつもと変わらず、潮江と食満は半信半疑といった表情だ。
「なに、なんの話だい?」
先生の処から戻ってきた善法寺が廊下の奥から訪ねながら聞いた。
「あ、いさっくんちょっと待って、まだ来ないで!」
「なに、やはり浮気してたのか!見損なったぞ名前!」
「え、名前が浮気?!」
七松の言葉に善法寺の顔色が失せていく。
「ああ、もう、違う違う。こへが見たのはいさっくんだよ」
「いや、髪は黒かったしサラストだった。それにいさっくんよりかっこよかったぞ」
「それってこの人じゃなかった?いさっくん来てー!」
名前を呼ばれふらふらと歩いてくる。名前の浮気発言がよっぽど効いているらしい。
障子から顔を出す善法寺を見て、ようやく名前の肩から手を放した七松は指をさした。
「あー!」
大きく丸い目をさらに丸くして七松は叫び声をあげ、続けて捲し立てるように話す。
「こいつだ!これが伊作なのか?なんでそんな格好をしているんだ!」
七松は名前と善法寺とを交互に見ながら聞いた。
「今日は変装の補習で一日この格好だったの。ね?」
「え、うん。そうだけど、なに、もしかして浮気って僕のこの格好のせい?」
「そういう事みたい」
「なんだ、僕てっきり名前に浮気されたかと思ったじゃないか」
「そんなのは伊作が紛らわしい変装なんかするからだろ!変装のテストで赤点をとった伊作が悪い!」
七松の正論に伊作は言葉につまる。
「だけど言ったじゃない。僕今日は変装の補習があるからそれで名前と甘味処に行くって」
「え、言っていたか?」
七松が同意を求めるために一部始終を見ていた立花、潮江、中在家、食満を見る。
「…言っていたぞ」
中在家がもそ、と呟くように言えば、他の三人も頷き同意する。立花は口許に笑みを湛え、潮江と食満は呆れたように見ている。中在家だけはいつものことだとして表情を崩さない。
「そうか。でも浮気じゃないことがわかってよかったじゃないか伊作!細かいことは気にするな!」
伊作の肩を叩きながら笑う七松を見て名前は苦笑いをした。善法寺だけは納得いかないようで、何事かを言いたげに口をパクパクさせるが言葉は出てこない。
豪快に笑う七松に善法寺はため息をついて名前を見た。
「でも本当に浮気じゃなくてよかった」
力なく笑う善法寺を見て名前は綺麗に笑う。
「そんなことするわけないじゃない」
「うん、でも、不安になった」
周りは既に善法寺と名前に感心を寄せておらず、七松がバレーをするぞと息巻いているのを止めている。
「私はいさっくんがそれで不安になってるのを見て嬉しかったよ」
「ひどいなあ」
「いさっくんに愛されてるなって思ったらついね」
「…そんなこと言うなんて狡い」
「ふふ、さ、先生に合格の印をもらいにいこう」
名前は善法寺の手を引いて騒がしい部屋を後にした。
勘違い
end
テスト文章。三人称って苦手です。
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